不思議なのねん
結局ギックリ腰ショックで、妻は二日も小説の更新を休んでしまったのだった。
その間も、アクセス数が〜アクセス数が〜と、呪いのような声がフスマの向こうから響いていた。
普段は寝室は一緒なのだが、みっともない姿を見られたくないと、妻が同室になるのを拒んだのであった。
それほどさようにギックリ腰というのは痛いらしい。
トイレに向かうのに廊下を歩く妻の姿は、八十代のおばあさんのように、ヨボヨボだった。
私に見られているのに気づいた妻は、
「見ないでよっ!!あっち行って!!」
と、わたしを邪険にしたのであった。
それでもさすがに、ギックリ腰も四日目ともなると、落ち着いてきたのか、
「今日から、また小説を、更新するわん!」
と、妻は言い出したのであった。
妻は布団にうつ伏せになって、枕の上に、肘をついて、スマホをいじる、というのがクセになっている。
学生の頃、体操部のメンバーより、上体そらしの数値が良かっただけあって、その姿勢は普段はあまり苦にならないらしかったが、ギックリ腰を患っているいまは、やはり辛いものがあるらしかった。
「不思議ねん…」
ようやく面会を許された……もとい、フスマを開けることを許されたわたしは、妻の枕元に、妻の好きな紅茶を運んであげたところだった。
「イタイイタイイタイ」
と、いいながらも体を起こした妻は、さきほどのセリフをもらしたのであった。
「なにが不思議なんだい?」
「私の執筆中の『俺のカノジョにに血と薔薇を』なんだけど、昨日と一昨日、更新を休んでしまったじゃない?」
「ああ、まさに物語はクライマックス!って言うところで、続きがわたしも気になっていたんだ」
「その『俺のカノジョに血と薔薇を』なんだけど、そのお休みした、一昨日のアクセス数が、やたら多かったのよ……」
「やっぱり、物語がクライマックスだったからじゃないか?」
「でも、ブクマ三人しかいないのに…どういう経緯で目に止まったのか、謎だわん」
「ちなみに、アクセス数はどのくらいだったのかい?」
「詳しくは教えられないけど、前の日の三倍よっ!!」
「そういえば、このエッセイのアクセス数も一日に百件以上のアクセスがあったと思ったら、貴徳な方がレビューを、書いてくださっていたってことがあったが……」
「あなた?!エッセイって、なんのことっ?!」
「いやまあ、とにかく、レビューが書かれたわけではないんだね?」
「そうなのよ……まあ、とにかくものすごくお話の盛り上がっていた場面だから、読み手が増えてくれたのは嬉しいんだけど……」
「よいお話を書いていけば、自然と読者の目に止まる、ということじゃないか?」
「そうなのかしら?」
「そうそう。Twitterの別垢でつぶやいたり、グ◯ーのコミュでつぶやいたりするより、やっぱり王道!よい作品を、書く!これだよ!」
と、わたしは珍しく力説したのであった。
「そうね、あなた!」
と、妻も胸の前で手を組んで、感動している。
「私、頑張っていい小説を書くわ」
「うんうん」
「でも、念のため、Twitterで呟くのはやめないわ!」
「ズコッ!」
「だって、あれやると、時間帯にもよるけど、アクセス数が三人くらい増えるのよ!」
「いや、そんな時間があるなら、小説の書き溜めでもしたほうが……」
「すべての道はローマに通ず!すべての努力はバズるに通ずるのよ〜!」
と、力強く叫んだ妻は、腰痛がぶり返したのか、また
「イタイイタイイタイ」
と言って、布団に横になってしまった。
なにはともあれ、妻のギックリ腰が少し良くなって、わたしはホッとしていた。
できるなら、妻の小説のアクセス数も伸びてくれればいいなぁ。
なんてことも考えつつ、フスマを閉めたのであった。




