雛壇芸人並みに…
「しかし、おまえの小説もよく続くなぁ……」
「三月三日に書き始めたから、一ヶ月と十日ほどになるわねん」
と、妻は答えたあと、
「一話書くのにだいたい一時間半かかるから、家事がおろそかになって申し訳ないわ……」
と、しおらしく言った。
「おまえに新しい趣味が出来て、わたしも、うれしいから問題ないよ」
「ミネルヴァさんに、『調子のいい時に書き溜めておくといいですよ』って言われたけど、毎日更新するのがやっとで、書き溜めなんか、とてもできないわ〜」
ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、自称女性だが、妻も直接会ったことはないらしく、わたしは密かにネカマを疑っているーーが、まあ、妻に新しい趣味を、与えてくれたのだから、そのへんはグレーにしておいたままでよいだろう……。
「……確か、最初のころ、最初のシーンとラストシーンは決めてあるけど、途中のことはあやふやだみたいなことを言ってたと思うが……」
「高校の学内誌に載せた短編の焼き直しだから、書き出しとラストシーンは、決まっているのよ」
「まあ、三十年以上昔に学校内の文芸誌に載せたものの焼き直しなら、まあ、時効だとは思うが……」
「でもでも、内容はすでに思わぬ方向に進んでいるから、もはやまったくの別物よん」
「それだよ……!」
「は?それって何が?」
「おまえの小説、プロットとか、あるのか?」
「プロット?」
「わたしがある有名小説家の講演会に、たまたま行った時、その作家さんは、原稿用紙を連ねたものを見せてくれて、時系列がどうとか、とにかく事前に作品を構築しておくことの大切さを語ってくれたんだが……」
「あなた、私に内緒でそんな面白そうな所に行っていたのね!」
と、妻は憤慨したが、
「それで、何が言いたいの?」
と、わたしに訊き返してきた。
「いや、おまえがそういうものを用意しているのを、見たことがなくてだな……」
と、わたしが、言うと、妻は自分の頭を人差し指でトントンと叩いて、
「それは、この灰色の脳細胞の中にあるから、心配しないで!」
と、エルキュール・ポアロのようなことをのたまったのであった。
「そ、そうなのか、頼もしいな!」
「というのは、建前でーー」
と、妻はペロッと舌を出し、
「たしかに大筋は決まってなくもないけど、その日書いてる内容は、その日思いついたまま書いてるわん。雛壇芸人並みに即興で、その場その場を、しのいでるわん」
と、しゃあしゃあと、わんわんと妻は言ったのであった。
「……やっぱりそうなのか……」
「なに?あなた、文句でもあるの?」
「いや、ある意味すごいよ……」
「作品の続きがどうなるか、私にもわからないから、書いてる私もドッキドキよ!!」
「…………。」
「なによ、その目!きっと他の何千人のなろう作家さんも、大半は同じよっ!!」
「……まあ、それはいい。でも、おまえ、夕方の更新時間間近に小説書いてるから、日課の夕方の散歩、やめてしまっただろう?」
「な、なにが言いたいの?」
「最近、体重計、乗ってるか?」
「ぎくぎくっ!」
「あきらかに、太ったぞ……」
「いぃぃやぁぁぁああ!!」
妻の断末魔が、部屋中に響きわたった。
「……明日から、朝歩くわ……これ以上、持病を悪化させないためにも……」
「死ぬ気でガンバレ!!」
だが、明日の天気は予報では雨なのだった。
土砂降りの雨の中を、妻が歩くかどうか、それは定かではないのであった……。




