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アレルゲン


「あーアジの開き食べたい!

 あーアジフライ食べたい!

 あーなめろう食べたい!

 あーさんが焼き食べたい!」


 と、妻が(わめ)いていた。


 なめろうと、さんが焼きは、わかりにくいと思うが、なめろうは、アジのタタキと、味噌、ネギ、大葉をまぜたもの、さんが焼きは、なめろうを焼いたもの、と思ってくれていい。


「おまえ、アジアレルギーなのに、そんなもの食べたら大変なことになるだろうに……」


「そーなのよ!食べられないのよ!だからこそ食べたいと思うのよ!昔は食べれたのに!アレルギーになったせいで食べられないのよ!オーマイガー!!」


 喚いたら喉が渇いたのか、妻は紅茶をガブガブ飲んだ。

 

 我が家は紅茶党だ。


「あなたもわかるでしょっ!食べたいのに食べられないジンマシン、じゃなくて、ジレンマ!」


「わからんのだよ……わたしはサバアレルギーだが、サバをあえて食べたいと思ったことがない……」


「サバだけに、サバサバしてるわね!でもアジはちょっとひと味違うのよ!アジだけに!」


「…………。」


「あーカニ食べたい!

 あーカニしゃぶ食べたい!

 あーカニすき食べたい!

 あーカニミソ食べたいっ!!」


「おまえ、カニアレルギーはアジよりひどいじゃないか!そんなもの食べたら、アナフィラキーショックで死ぬぞ!!」


「誰かさんが獲って来た川蟹(かわがに)食べたせいで、私はカニアレルギーを発症したのよー!!」


「うっ!」


「カニ好きなのにーカニ好きだったのにー私はもうカニの食べれない体になってしまったのよー!」


「それは……至極(しごく)残念に思う。申し訳ない……」


「だったら、私をロブスターを食べに連れてってー♪」


「それは……いいが、大丈夫なのかい?たしかにおまえはカニは駄目でもエビなら大丈夫な、不思議・甲殻類(こうかくるい)アレルギーだが……」


「エビとカニは別物!!」


 妻は、ビシッと右の(てのひら)を、わたしに向けた。


「アレルギー品目表示でも、エビとカニは分かれて表示されてるでしょう!エビとカニは別物っ!もっとも、エビが進化したものがカニだっていう説もあるけどっ!」


「えっ?そうなのかい?」


「進化して、わざわざアレルゲンになるなんて、口惜(くちお)しや、カニ……」


「でも、カニは駄目でもエビは大丈夫なおまえだけど、ロブスターは大丈夫なのかい?」


「それは……食べてみなければわからないわ……」


「そんな無謀(むぼう)な!」


 と、わたしが叫ぶと、妻は


「ちょっと待って」


 と言って、スマホをいじり始めた。


「大丈夫!ロブスターは、えっと……エビ目・ザリガニ下目・アカザエビ科・ロブスター属……立派なエビの仲間よっ!!」


「おおっ!!……しかし、万一ということもあるし……」


「だったら伊勢海老!!えっと……エビ上目イセエビ下目イセエビ科イセエビ属……これは絶対平気!私を、伊勢海老を食べに連れてって!!」


 果てには、妻は


 Fly me to the moon


 を歌い始めた。


 エヴァのED曲としてよく知られているが、わたしはフランク・シナトラが、これを唄っているのが好きだった。


 訳せば、


「私を月まで連れてって」だ。


「フランク・シナトラといえば、『踊る大紐育(だいニューヨーク)』もよかったよなぁ……昔のミュージカル映画は良かったよなぁ」


「あなた、何をしみじみ(ひた)ってるの?いいから、私を伊勢海老を食べに連れてって!」


「ハイハイ」


 つい二つ返事をしてしまったが、後の祭りだ。


 妻は、


「やったー!EーSEーAーBー!ひゃっほうっ!」


 またお小遣いが減ってしまうと青くなるわたしに向かって妻は、


「大丈夫♪いまは回るお寿司屋さんにも、伊勢海老あるからっ♪」


 きゃるん♪


 と、わたしに目の横ピースをして見せたのだった……。


「ははは」


 わたしはただ、笑った。


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