買い物は、戦争だ!
「困った事は〜先送り〜
困った時は〜責任転嫁〜」
と、妻が歌いながら踊っていた。
いつもの日常風景なので、気にせずTVを見ていた。
「あなたっ!聞いてるっ?!」
「えっ?ハイハイ、なんだって?」
「ーー聞いてなかったのね?!私、悔しいのよっ!!」
「なにが悔しいんだい?」
「戦争に、負けたのよ!」
「えっ?またゲームアプリの中のお話かい?」
「違うわ!リアル日常の中のお話よ!お買い物で、半額商品争奪戦に負けたのよ!私!悔しいっ!」
「半額商品って…今日の夕飯に並んでいたおかずの数々のことかい?あれでも多すぎるくらいだったけど……あれは全部が全部、半額じゃなかったのかい?」
「全部半額よっ!」
と、妻は胸を張った。
「……ならいいじゃないか。おまえの好きな、半額商品がたくさん買えて」
「本当は私、今日はお寿司が食べたかったのよ!」
「……今日は天ぷらだったな、メインは」
「そうよ、お寿司を買おうと売り場に行ったら、ちょうど店員さんが、シールを貼ってるところだったの!だけどだけど、店員さんの後ろに張り付いてるBBAが、こともあろうに買い物カートで、他の人をガードしていてっ!おかげで私、半額のお寿司を買い損ねたのよっ!」
「は、はぁ」
妻の剣幕に、なかば恐れ気味、なかば呆れぎみのわたしであった。
「ショーケースの前に、買い物カートを押し込んで他の人をガードするなんて、半額ハンターにあるまじき行為だわっ!」
「半額……ハンター……」
「そのBBA、お寿司を5パックと、トンカツ3パックと餃子2パックまで買って行ったわ!何アレ?あんたのおうちは5人家族なんですか?!って、聞いてやりたかったわよ!!」
「……5人家族だったんじゃないのか?」
「天ぷらコーナーまで来た時、やっとそのBBAがどいたんで、すかさずポジションチェンジして、やっと手に入れたのが、タラの芽の天ぷらと、天ぷら盛り合わせの半額商品だったのよっ!」
「なるほど……ということは、サラダとほうれん草の白和えも……」
「半額よっ!」
「なるほど」
わたしは、なんだか泣きそうになってしまった。
半額商品を求めて、よその奥様と張り合う妻……。
「おまえなぁ、明日は、お寿司、食べに行こう。わたしのお小遣いからお金出すから」
「えっ?!ホント?!やったぁ!!回らないやつ?!」
「いや、回るやつでお願いします……」
「ちぇっ。まあいいわ、明日はお寿司っ♪お寿司っ♪」
実際のところ、半額のお惣菜を、何パックも買ってこられるより、回るお寿司を二人でお腹一杯になるまで食べたほうが、安上がりというものだ。
でも、たまには揚げたての天ぷらを、おうちで食べたいなぁ、なんて贅沢を言ってはいけないのだ。妻は揚げ物が、苦手なのだ。
天ぷら屋さんに食べに行くとなれば、回らないお寿司屋さんに行くのと同じほどの出費になる。
明日はお寿司屋さんだぞーの踊りを、踊り始めた妻を眺めながら、なんでもない日常の幸せをかみしめる、わたしであった……。




