だって涙が出ちゃう…
「えぐっ!ひぐっ!ぶぶっ!ぐふっ!」
と、妻が泣いていた。
「どうしたんだ?!また紋次郎のことでも急に思い出したのかっ?!」
「近いけど、違うわ、あなた……」
妻は真っ赤に泣きはらした目で、私を振り返った。
「コタローちゃんが……コタローちゃんが……」
「おまえの書いてる小説『俺のカノジョに血と薔薇を』に出てくる柴犬だな。そのコタローがどうかしたのか…?!」
「……ナイショよ。知りたければ、小説を読んで……」
「ズコッ!」
と、わたしはずっこけて、
「泣きながら宣伝するのはやめなさい!」
「宣伝してるんじゃないのよ。でも作者としてネタバレはいけないと思って自粛してるのよっ!!」
「お、おうっ……」
妻のすごい剣幕に、ちょっと怯むわたしだった。
「だめねぇ…紋次郎が亡くなってから、私、涙もろくなって…」
紋次郎というのは、五年ほど前に亡くなった、私たちの愛犬だ。
ちなみに、もっふもふのシェットランドシープドッグだった。
「たしかにあれ以来、わたしも涙もろくなった気がするよ…」
「でしょ?私もYouTubeを見るときは、感動とか、閲覧注意とかの動画は見ないようにしてるわ!ワンちゃんもネコちゃんも好きだけど!」
「そろそろ、新しい子を、お迎えしてもいいんじゃないかな…」
と、わたしは言ってみた。
「まだまだそんな気になれないわ…」
「そんなことを言っているうちに、タイムリミットが来てしまわないかい?」
「タイムリミット?」
「なんだ…そら、ほら、犬の寿命が先か、私たちの寿命が先かみたいな…」
「まだまだそんな歳じゃありませんよっ!」
と、言ったあと、妻はハッとした顔で、
「まさかあなた、どこか健康面に不安があるの?!いやよ、私を置いていかないで〜〜〜!」
と、妻は本気で泣き始めた。
「どこも悪くないって!持病はいつものことだが、ちゃんと、お医者さんから薬を貰って飲んでるからな!」
「あなた…絶対、私より先に死んじゃイヤよ…」
と、妻は言ったあと、
「一日でいい、私より、長生きして…」
と、またどこかで聞いたことがあるようなないようなセリフを吐く妻であった。
そして、自分の言葉に酔ったのか、また泣き始めた。
こんな妻だが、一日だけならいいな、何年もわたしのほうが置いていかれたら、わたしの老後はさぞさびしかろうなぁ……と、思うと、わたしもちょびっと泣けてきてしまったのであった。




