更新
「やったわ!私はスランプから脱したのよっ!『俺のカノジョに血と薔薇を』、五日ぶりの更新なのよっ!!」
「……そんなに休んでたのか……」
「ええ、ミネルヴァさんには、飽きたんだと思ってました。小説誌になろうでは、よくあることだから……って、言われちゃったけど、私は飽きてなんかいないわ!ちょっとスランプに陥っていただけよっ!!」
ミネルヴァさんというのは、妻のLINE友達で、十年来の付き合いのある自称女性だが、妻も直接会ったことはないらしく、わたしは密かにネカマを疑っているーー。
「スランプを、そう堂々と言われてもなぁ……」
と、わたしが言うと、
「大作家の大作には、スランプはつきものなのよ〜〜〜」
妻はホホホッと高笑いした。
「でも、数少ない読者の皆さま方には申し訳ないことしたわ〜。これからは、また、バンバン更新していくわ〜」
「数少ないねぇ……わたしとミネルヴァさんしか、ブクマしてないものなぁ……」
「なによ、アナタ!今日はやけにからむわね!!」
妻は、キッとわたしを睨む。
「いやね、おまえが思いつきで始めた異世界転移小説のほうの更新もとどこおってるじゃないか」
「ギク!」
「あちらは、そもそも、ちゃんと続けるのかい?」
「ギクギク!」
と、妻は擬音で答えたあと、
「やり始めたからには、やり終わってみせるわ!ただ……更新ペースがちょっと遅くなるかも、だけど……」
「それは、半ば放置と違うか?」
「ギクギクギク!」
だが、妻は、わたしのツッコミに怯むような妻ではなかった。
「いくら私が才能に溢れていても、一度に汲み上げることのできる泉の水の量に限りがあるように、そういっぺんには、あれもこれもできないのよ〜。悲しいけど、優先順位は存在するのよ〜〜〜」
と、雄叫びを上げたあと、妻は、
「悲しいけど、これが現実なのよね」
と、どこかで聞いたことがあるようなないようなセリフを呟いたのであった。
なんだかんだ言いつつ、妻が小説を書き続けてくれることが、なんだかわたしも嬉しいのであった。
「じゃあ、大作家さんに、お茶でも淹れて差し上げますか!」
「あっ、アナタ、今日はイングリッシュブレイクファーストがいいわ」
「了解」
ともあれ、こんな平和な日がたまにはあってもよいと思うわたしであった…。




