ルビを振るのは…
「ほんっと、恥ずかしいわよねぇ…」
と、妻はいきなり切り出した。
またなんかやらかしたのかと思って黙って聞いていたが、どうやら妻が恥をかいた話ではなく、妻が出会った恥ずかしい話のようであった。
「昨晩、趣味のYouTube鑑賞をしていたんだけど…私、ほら、嫁姑問題の修羅場ものが好きでしょ?そういうのを検索してわざわざ見てたんだけど」
なかなかエグい趣味であるが、わたしの両親は妻との結婚前に亡くなっていて、わたしは勤労学生として妻と出会ったから、そもそも妻には姑という存在がいなかった。
いわば嫁姑問題というのは、妻にとっては異世界物語と同じくらい、パラレルな存在らしい。
それも、YouTubeのまとめ動画での出来事ともなると、まったくの他人事、ドラマを眺める感覚で鑑賞できるのらしいのだ。
あまり良い趣味とは言えないが、誰に迷惑がかかるわけでもないので、わたしとしては、仕方ないやつだなぁくらいにしか思っていなかった。
「それが、なかなか子どもができない夫婦の、お嫁さん視点の話なんだけど、テンプレで姑ーートメって最近では略すらしいんだけどーーが、孫、まご、うるさくしててね、それでも夫はかばってくれないどころか、不倫してしまうの。ーーあ、不倫相手はプリンちゃんて呼ぶのが一般的なのよ」
どんな一般だ!!
ーーと、心の中でツッコミつつ、黙って聞いていた。
あまり楽しい話題とは言えなかったので、聞き流すことにしたのだ。
「それでね、姑が、お嫁さんのことを、『石女』って、罵るんだけど……この動画っていうのは、紙芝居風な音声つき漫画動画なんだけどね…」
「ふーん」
わたしは適当にあいづちを打った。
「この『石女』!って部分を、ナレーションの人が、『いしおんな』!って、読んだのよ……」
「……ふーん…………え?」
「だから、石女を、いしおんな、って読んだのよ。しかも何回も何回も……」
「……それは……たしかに恥ずかしいな……」
「っでしょおっ?!」
妻は我が意を得たりとばかりに、まくしたてた。
「『うまずめ』も読めないなんて…恥ずかしすぎるわ!それが何十万回も再生されてるのよっ!あの動画を見て、石女をいしおんなって読むんだーーって、思い込んじゃった視聴者もたーくさんいたと思うの!はっずかしっ!!」
「うーん、たしかに恥ずかしいなぁ、それは…」
と、わたしも同意せざるを得なかった。
「『天津甘栗』を『あまつあまぐり』って読んじゃったり、『月極駐車場』を『げっきょくちゅうしゃじょう』って読んじゃったりするのと同じくらい恥ずかしいわ!」
「そうだな『世迷言』を『よまよいごと』って読むくらいには恥ずかしいな」
わたしが言うと、妻は一瞬「えっ?!」という表情になり、
慌ててスマホをポチポチやり始めた。
そして、
「ああ、よまいごとね、よまいごと。よまよいごとじゃないのよね、あれって、よまよいごとじゃ…」
と、アセアセという擬音がつきそうなごまかしかたをしたのであった。
たぶん……妻は世迷言については、読み間違いをしていて、今わたしから話を聞いて、ググッて確かめて、その事実を知ったのだろう……
だが、わたしは気づかなかったフリを、することにした。
夫婦円満の秘訣は、ときには寡黙になること、だ。
わたしは、妻には最近、小説を書く趣味が、できたわけだし、YouTube鑑賞はもう少しひかえてくれればいいなぁ……と、ぼんやり考えたのであった。




