ふっか〜〜〜つ!の妻
「あなた、異世界から、こんばんは」
「おおっ!かえってきたのか、おまえ!!」
「てへっ♪」
と、お互い五十歳を超えた妻とわたしは、トリップした会話をしていた。
「わたくし、このたびスランプから脱出しました!今日からまた『俺のカノジョに血と薔薇を』の連載再開しま〜す!!」
スランプだ、しばらく休むと言っていたのは、つい昨日のことだったが、わたしはあえてそこは突っ込まなかった。
じっさい、スランプもといブランクは、五日間ほどあった。
「数少ない読者様にご迷惑をおかけしたことを、ここにお詫びいたしますっ!」
と、妻はペコリと頭を下げたが、少ないも少ない、ブックマークは、わたしと、妻のLINE友のミネルヴァさんーー妻曰く、女性でネット通で、妻に小説家になろうサイトを教えた人物であるらしいのだが、わたしは密かにネカマを、疑っているーーの、二人だけだった。
そして妻は、アクセス数もブクマも増えない、これじゃあバズらないわっ!と、さまざまな奇天烈な作戦を繰り返してきたものの、その成果は、報われているとは言い難かった。
「王道に帰って、まっとうに物語を進めて読者をつかむわ!!」
妻がまっとうなことを言い出したので、私も思わず感動してしまった。
「うんうん、それが一番だよ…」
と、うなずきながら、わたしは、
「おまえの小説の良さは、読めばわかる。地道に書いていくことが、一番の良策だよ…」
「そう、読んでさえもらえばわかる!そこで私、大賞に応募することにしたの!」
「ーー大賞、だって?」
「検索キーワードに、◯◯◯◯大賞って入れれば、それで大賞に応募したことになるのよ〜〜〜!!!
応募されたからには、審査員は必ず作品を読まなければいけない。
読めば私の作品の良さはわかる。
大賞受賞する。
話題になる。
アクセス数が増える。
バズる〜〜〜。
ーーという寸法よ〜〜〜」
わたしは若干頭痛を覚え、こめかみを押さえながら、
「ウン、ソウナルトイイネー」
と、思わず棒読みで返事をしてしまったのだった。
いつもならそこで、ギロリとひとにらみされるところだが、
妄想モードに入った妻は、私の言葉など、耳に入ってない様子で、
「でも、大賞受賞しても、コミカライズ確約が恩恵なのよね……私の頭の中では、実写でストーリーが進んでるから、いっそ実写映画化してくれないかしらねぇ……」
本気で悩んでいるふうな妻だった。
「ソウダネーソレハコマッタネー」
「映画化なら、アニメ化でも可だけど……」
「ウンウン」
「そうなると、やっぱりR15になるかしら…残酷描写も、あるし…でも、主人公が、中学生なのに、R15っていうのも、奇妙なカンジよね〜」
「ソダネー」
「……あなた、ちゃんと聞いてるの?」
「モチロンだよ…でも、書きかけの異世界小説のほうはどうするんだい?」
「あら、もちろん続けて書くわよ」
妻はサラリと言ってのけたあと、
「私の才能は、二作同時進行くらいでは枯れ果てないのよ〜〜〜なんなら二作まとめてバズってみせるわ〜〜〜♪」
ホホホッと高笑いする妻であった。
結婚三十年、夫婦円満の秘訣は、妻の話に異論を挟まないことだ。
むろん、それが、誇大妄想話であってもだ……。
「ガンバレーオウエンシテルゾー」
「やってやるわよ、ホホホッ!あなた、応援ありがとうっ!」
妻はガッツポーズをとったあと、おまけにピースサインを目の横に当てた。
こうして、妻はとにもかくにもスランプから脱出したのであった。




