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くらう。  作者: 溝口智子
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 塩谷は椅子に置いていたバッグから角型二号というサイズの茶封筒を取り出した。手渡されて中を覗くとA4の書類が数枚、びっしりと文字で埋め尽くされている。あとは写真が三枚とUSBメモリがひとつ。


「人探し?」


 慎一は写真を手に取った。二十歳そこそこくらいだろう、さっぱりとした清潔な印象の青年が寂し気な冬の海をバックに写っている。

 顔立ちにも体型にも、これといった特徴はない。強いて上げるなら、あまり幸福そうには見えない男だ。後の二枚も同じようなものだった。

 塩谷はもう一枚、男と同年代の可愛らしい女性の写真を取り出した。


「去年、世話になった姪のあいりのことなんだが、恋人の行方不明者届を出したんだ。が、まあ、事件性はないと判断されたと泣きついてきてな」


 失踪者の捜索願を出しても、消えた人間が成人で事件性がないと判断された場合、積極的な捜索活動が行われることは、まずない。

 現役刑事の塩谷はもちろん、元警察官だった慎一もよく知っていることだ。警察は事件が起きてからでないと動かないのだと市民から恨まれることも多い。

 だが、警察官を辞めてから探偵のまねごとをすることもある慎一にとっては、捜索人が増えることは仕事がやってきてありがたいことだった。


「もちろん、謝礼は払う。大した金額は出せないのが申し訳ないんだが」


 塩谷から依頼を受けるのは四度目だ。一度目、二度目は簡単な素行調査のようなもの。三度目は単なる引越しの手伝いだった。その時でさえ、塩谷が包んでくれた金額は慎一の生活に大きな助けになった。


 引っ越しの仕事は塩谷の姪、北原あいりのものだったのだから、写真を見せてもらわなくとも顔は知っているつもりだった。だが、女性は一年でこんなにも変わるのかと驚くほど、写真の中のあいりは垢抜けて大人っぽく、明るい笑顔を浮かべている。


「行方不明って、いつから?」


「二日前だ。会社員なんだが、二日前に姪が見たのが最後で、その後、会社にもあいりの前にも姿を現していない。携帯関係は電源は入っているが応答はない。スマホのGPSは元から切ってあったそうだ。彼氏の家に行ってみたが、二日前から帰って来た形跡はない」


「普通の家出じゃないのか?」


「まあ、一般的な失踪だと思うが。無断で休むような人間ではないそうだが、休暇の連絡がなかったそうでな。その会社でバイトしているあいりと付き合っていることは上司も知っていたから今回の依頼になった。彼氏に失踪するような理由は見当たらないらしい」


 青年は真面目で仕事は遅刻の一度もなしだという。


「あいりが知っている情報は全部書き出してまとめさせてある。USBメモリの中身は、消えた彼氏のパソコンの履歴だ。どうだろう、頼まれてくれないか」


 慎一は体裁の整った書類に目を通した。

 いなくなった彼氏の氏名、生年月日から、就職先、友人の情報、出身校など、ちょっとした身辺調査報告書のような細かな内容だ。

 あいりとその恋人はよっぽど深い付き合いなのだろう、お互いのことを話し合って情報を共有できているのは親密な証拠だと思われた。


「とりあえず、この資料、預かるよ。俺で役に立つかどうか読んでみてから連絡する」


「そうしてくれるとありがたい。もし無理なら遠慮なく言ってくれ。親父さんのこともあるんだしな」


 塩谷の気遣いに、慎一は曖昧な笑みを返した。


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