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くらう。  作者: 溝口智子
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 六棟目で、やっとそこを見つけた。

 外から見ると三階建てのようで、窓が三段に並んだ工場だ。慎一は、工業団地を巡り歩き、工場のフェンスや鉄柵を何度もよじ登った。

 手にはもうほとんど力が入らない。その手で半端に開いている工場のシャッターをこじ開けた。中はがらんと広く、機械も何もない。

 懐中電灯で照らしながら奥へ進むと、壁に沿った金属製の階段があった。慎重に足音を忍ばせて上っていく。


 二階のドアにはガラスが嵌まっていて、中の様子が見えた。やはり何も残ってはいない。引きちぎられたような剥き出しの配線やところどころ捲れている薄汚れたカーペットを見るに、休憩室だか何か、そういった部屋だったのだろうと思われた。


 三階へ上ると、さんさんと日の照る大きな窓がある廊下の先に、半分ほど開いたドアが見えた。とんでもない異臭が鼻を突く。

 警察官だった時に何度か嗅いだことがある。何度嗅いでも、きっと慣れることはないであろう、この臭い。


 出来るだけ息をしないようにしながらそっと近づき、ドアに隠れながら室内を覗く。ぶん、と鼻先を蝿がかすめて飛んだ。部屋の中には影が三つ。どれも蝿にたかられている。

 一つは女、一つは男、もう一つは性別もわからない、ぐちゃぐちゃした肉の塊だ。その塊が、逃げ出したくなるような独特の腐臭を放っている。

 その死臭のために、かろうじてそれが人間の遺体だということがわかった。


 男は床に寝そべった女の胸に顔を寄せて、幸せそうに目を瞑り、女の体を優しく撫でている。その顔は探していた男のものだった。


「江崎翔か」


 呼びかけると、翔はゆっくりと目を開いた。慎一は部屋に入り、蝿を手で払いながら大股に翔に近づく。

 女は死んでいた。体のあちこちが食いちぎられ、肉が露出していた。だが、血は流れていない。


 翔はぼんやりと慎一を見上げて、ぽつりと言った。


「お腹、すいてるの?」


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