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くらう。  作者: 溝口智子
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   ***


 翔はぼんやりと目を開いた。日が傾いてきたようで、室内は薄暗くなっていた。

 縛られたままで、すでに腕の感覚はない。そんな状態でも、空腹は感じる。翔は自分が浅ましい餓鬼のように思えて、泣きたくなった。精神状態が子どもの頃に戻りかけているような気がしている。縛られて放置されるという経験が、昔の感情を呼び覚ましているようだ。


 涙目で、部屋の向こうに横たわる死体を見つめる。真っ赤だった傷口は、今は赤黒く変色している。きっと腐敗が始まっているのだ。すぐに臭いだすだろう。蛆も湧き、蝿になり、翔の体にもたかるだろう。


 いや、それまで生きているかわからない。もう何時間も水を飲めていないのだ。熱中症で倒れるのが先だろう。

 倒れたところでロープに戒められていたら、傍目にはぐったりしているくらいにしか映らないかもしれない。傍目などというものが、ここにやってくるならばの話だが。


 目が覚めてからずっと耳を澄ませていたが、人の話し声はおろか、車の音、鳥の鳴き声も、何も聞こえてはこなかった。自分がたてる音以外で唯一聞いたものは、カタンカタンという足音と、あの女の声だけだ。


 口の中に女の血の味が蘇る。想像の中でその味は、とろけるように甘く、芳醇に香った。何度も何度も扉の方に視線が動く。

 あの女が戻ってきて、また血を飲ませてくれるなら、何でもする。そう思っているうちに、室内は真っ暗になった。


   ***



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