三つ目職人のジョギー
ジョギーが辿り着いた先、そこは岩山からかなり離れた位置にある荒野の街だった。
酒場の手前でシシーから降り、靴底でマッチの火を付けて葉煙草にともす。
きぃとその戸を開けると、一瞬目が集まるが屈強な男さえその姿を見て慌てて目を逸らした。
ジョギーは横目にそれを眺め、やがてカウンターに寄る。
「やぁお客さん、注文は?」
「牛乳。ビクターは?」
店主の男に問うと店主は顎をしゃくる。
その先には保安官のバッジを付けた小太りの男がクダを巻いていた。
安いスコッチを飲む保安官、ビクターはジョギーを見て口の端を吊り上げる。
「おー、棺桶屋は取り越し苦労みてぇだな」
「でもないぜ。五つ作るよう言っとけ」
そしてビンゴブック五つとそれぞれの耳を投げる。
カウンターにぽとりと落ちた耳を見てビクターは若干頬を引きつらせた。
「気色悪ぃだろうがよ。もうピーナッツを食う気にゃなれねぇぜ」
「痩せとけデブ。ジョージ、牛乳で良いっつったろ」
「牛乳が良いの間違いだろ、おしゃぶりガンマンよ」
「言ってろタコ」
悪態をつきながらも牛乳を飲み、ビクターは耳をどけてビンゴブックを覗く。
「ガモンとその仲間は今日限りクソを撒くこたねぇって事か」
「そう言うこった。オラ、金」
「分かってら」
そして札束を出し、受け取ったジョギーは指を舐めて枚数を数える。
「チョロまかしてねぇだろうな?」
「やってるかよバカ。全部で1050、ボロい商売だなジョギー」
「ならお前もなってみちゃどうだい?そのバッジはお袋にこさえてもらったのか?」
「バカ言え。俺ぁお前ら使ってのんべんだらりだ。馬車馬になるにゃ、俺はめんどくさがりでよ」
ケヒヒと笑うビクターにジョギーは取り敢えず金を受け取る。
その背後、背中を向けるジョギーを睨むのはテーブル席の男。
ジョギーは牛乳の入ったグラスを一息に飲み干し、暇つぶしと言わんばかりにまじまじと眺めている。
「……あいつだ、『三つ目職人のジョギー』」
「間違いねぇか?」
「ああ。クソ色の髪にポンチョ、ガモンを殺ったって事なら……」
「そうだな」
かちりと、テーブルの下に手にしたライフルのレバーを引く。
そしてゆっくりと、周りの喧騒に気付かれない様に銃口をテーブルの下から出す。
その最中、グラスを呆けた目で見ていたジョギーは隣のビクターに言う。
「なぁビクター、小銭は持ってるか?」
「あ?お前にむしられてすっからかんだよ今は。俺にこそおごれよ」
「違ぇよタコ」
そして、そのグラスに映り込む、背後の男三人をしっかと捉えたまま、
「あれの分、後で持って来いよ…!」
振り向き、左手がポンチョより覗く。
そこにはリボルバーが在り、目を見張った男達に向かい、扇撃ちに三発。
そのいずれもが額に吸い込まれ、酒場に三つの死体が転がった。
悲鳴を上げるダンサーに動転する酒場の中、一瞬にして果てた三人を前にくるりとリボルバーを指で遊んでからホルスターに納める。
「い、いきなりだったな……」
「こいつらに言えよ。オラ、お前の仕事だ。棺桶屋にゃ八つとも言っとけ」
ちゃらりと小銭をカウンターに残し、ジョギーは去る。
ポンチョを翻すその背中、腰を抜かした店主にビクターは言った。
「すげぇだろ、アレ?」
「あ、あいつぁ何者だい、ビクター?」
店主が問うとビクターはスコッチを一杯あおって言った。
「ジョギー・クリューガー、凄腕の賞金稼ぎさ。その名も『三つ目職人のジョギー』」
そしてとんとんと自らの額を小突く。
「あいつにかかりゃ、どんな賞金首も三つ目の目ん玉プレゼントってな」