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セスタファンタジア―六つ星の幻奏―  作者: 新増レン
第一章 「世界を変える一歩」
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第一章7  『おのぼりさん』

 


 アルダとルシェは村を出た後、何度か他の村に立ち寄って休息をとり、何日もかけて港町までやってきていた。


「はぁ、はぁ、ようやく着いたぁ……旅って、こんなにキツいんですか?」


 ルシェは町の入り口でペタンと座り込む。

 それを見ていたアルダは、彼女の言葉に目を逸らす。


「お、あれ見てみろ」


「なんです、か…………ああ!!」


 アルダは話題を変えるために町の奥を指さした。

 するとルシェはすぐに立ちあがり、目を輝かせた。

 疲労困憊のなか、ルシェは疲れが吹き飛ぶ感動と巡り会う。

 それは、一面に広がる蒼の光景だった。


「あれが海……!」


「よし、元気も戻ったところ悪いが、まずは船の切符が先だからな」


 ルシェは海に興奮していたが、なんとかそれを制し、定期船乗り場へと向かった。

 ここの港町は活気がなく、少し寂しい雰囲気を漂わせている。

 石畳を進んでいくと、港の傍に建てられた船の乗り場を見つけた。

 二人はそこで切符を購入すると、ルシェの要望もあって乗り場を出る。

 そして近くにあったベンチに座り、目当ての定期船がやってくるまでの時間を潰すことにした。


「ここから定期船に乗るんですか?」


「ああ。世界各地の港町には、定期船の他にも色んな船が出入りしてる。大きい街であればあるほどその規模は大きい。代表的なのは、『ヘブンベル王国』だな」


「ヘブンベル王国?」


「世界最大の貿易王国。『バストゥーユ大陸』にあるんだ。首都はここみたいな港町『フォード』。でも、この町の比じゃないくらいに規模がでかい。見たらきっと腰を抜かすぞ」


「そ、そんなにすごい所なんですか?」


「そこかしこに行商人が闊歩していて、都の中心には城があるような場所だ」


「それって、王様のお城ですね」


「ああ。そういえば、この大陸の首都プリンキアには、まだ行ったことないなぁ」


 それを聞いて、ルシェは再び目を輝かせる。


「じゃあ、行きましょう!」


「駄目だ。まずエルメス村に行く。言っておくが、ルシェに行先の決定権はないぞ」


「わ、わかってますよぅ」


(絶対に忘れていたな)

 ルシェはどこか残念そうに口を尖らせている。

 そんな彼女をアルダは半目で見ると、案の定、目を逸らされる。


「……す、すみません。嘘です」


「はぁ……。舞い上がるのはいいけど、気をつけろよ?」


「はい?」


「この辺でも盗賊みたいな連中がいるんだ。……一応訊くけど、ナップザックはどうした?」


「それなら、ここに…………」


 ルシェはそう言って固まる。


「もしかして、無いのか?」


「あ、あれ?」


 アルダはすぐにベンチから立ち上がり周囲を見渡す。

 すると、見覚えのあるナップザックを持った男が、走って町から出て行くのを目視した。


「ここで待ってるんだ。いいな?」


「は、はい!」


 アルダはすぐに走り出し、男を追う。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 アルダは追い続けて町の外までやって来る。

 幸い、相手の逃げ足は下の下だったようで、すぐ追いついた。


「待て!」


「……!」


「そのナップザック、連れのなんだ。返してもらおうか」


「……っ!」


 盗賊は逃げるのを中断し、くるりとこちらに体を向けると、腰に構えたナイフを抜き取り、突進してくる。


「実力行使か……お前たち無法者相手なら、剣を振るうことが許されるのを忘れたか?」


 アルダは腰に差してある剣を柄から抜く。

 突っ込んでくる盗賊に刃を向けて下段に構え、ナイフに対して振り上げる。


 キィィッン!


 音を立てて、盗賊のナイフは宙に舞った。

 一瞬の隙をつき、アルダの剣が盗賊の目の前に突き付けられる。


「残念だったな」


「お、お前、『傭兵』か!?」


 盗賊は両手を挙げて驚いていた。

 あまりの速さに、動きが見えていなかったようだ。


「俺はそんなんじゃない。さ、早くそいつを返してもらおうか」


「……くそっ」


 無力を悟ったのか、盗賊はおずおずとナップザックを渡し、その場を立ち去ろうとした。



「待て!!!」



「ふいぃっ! な、なんだよ。ちゃんと返しただろ!」


「中身を確認するまで動くな」


 剣を突き付けると、またしても変な声を上げ、力なくへたり込んだ。


(どうやら、中身は無事みたいだな)


 どうやら本当に下の下だった盗賊は、このまま持ち去っていくつもりだったようだ。


「も、もういいだろ?」


「……駄目だ。一緒に来い」


「そ、そんな、あんまりだ!! いてっ! やめろ!!」


「抵抗するな。刺すぞ」


「ひいっ!! くそ、相手間違えちまった」


 盗賊を放置しておくわけにもいかないと思ったアルダは、強引に両腕をひっつかみ、そのまま町の騎士団に引き渡した。


「ご苦労様です」


「おぼえてろよおおお!!」


「おら、こっちへ来い」


 騎士団の男に首根っこを捕まれ、盗賊は詰所の奥へと連れていかれた。

 これで一件落着だ。

 ちなみに騎士団というのは、治安の維持や平民の護衛をするべく各地に派遣された団体のことで、ルシェの住んでいたような集落にはないが、こういった町には必ずある。

 ようは警察組織だ。


「戻るか。心配してるだろうし」


 ナップザックを片手に、アルダはルシェの元へと戻った。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「あ、大丈夫でしたか?!」


 戻ると、ルシェは心配そうにアルダのもとへ駆け寄る。


「ほら、取り返したぞ」


「私の……! ありがとうございます!」


「まあな。これを機に、もう少し危機感を持ってくれよ?」


「はい……」


 さすがにへこんでしまったらしく、ルシェはしゅんと小さくなる。


「ま、まあわかればいい」


 アルダの言葉にルシェは小さく頷いた。

 しかし、先程とうってかわって空気が重い。


 なんとか話題を逸らすべく、アルダはあることを思い出してルシェに話しかける。


「……そ、そういえば、そろそろ定期船が来る時間だな! ほ、ほら、楽しみにしてた船だぞ、ルシェ」


「船ですか!?」


「ああ……って、もう忘れてるんじゃないのか?」


「あ、す、すみません!」


「まったく……まあ、このほうがいいけど」


 あまりにも早い復活に驚いたが、アルダは心のなかで安心していた。


 こうして、二人は定期船に乗り込み、エルメス村のある「ミレージュ王国」もとい、「シルバーヘント大陸」に向かうことになった。










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