第一章6 『少女の一歩目』
遂に出発の朝を迎えた。
ルシェは普段から着馴れている服装をやめ、アルダに言われたように温度調節の可能な服装を身に纏っていた。
ナップザックを肩から下げ、お気に入りの羊毛帽子を被っている。
彼女は一度、家の中を見て一礼し、外に出た。
外に出るとそこには叔父と叔母、それから、剣を腰に掛け、黒いコートを羽織った一週間前の懐かしいアルダの姿があった。
最初はあの恰好だったが、今まではコートを脱いでいたため、随分と印象が違う。
「ルシェ、いつでも帰ってきていいからね。ここは、お前の家だ」
「ありがとう。叔父さん」
「アルダさんに迷惑かけるんじゃないよ」
「大丈夫だよ。叔母さん」
二人に挨拶を終え、少し離れた所に立っていたアルダのもとへと歩み寄る。
「準備はいいか?」
彼は優しく確認してくる。
ルシェはそれに対して大きく頷いた。
「はい!」
「………よし。じゃあ、出発するか。一週間、本当にお世話になりました。また、近くに来た時は顔見せしますね」
「どうか、お気をつけてください。それと、ルシェをよろしくお願いします」
「はい。任せてください」
アルダの言葉にルシェは小刻みに頷く。
別れの挨拶を済ませると、アルダはルシェに向き直る。
「行くか」
「はい……!」
アルダが歩き始めると、それについていく。
そして振り返り、ルシェは叔父と叔母に手を振った。
「気をつけるんだよ~」
「頑張ってらっしゃ~い」
「はい! 行ってきま~す!」
遠くなるまで手を振り、見えなくなってから、ようやくその手を下ろす。
「いいのか? まだ引き返せるぞ?」
「だ、大丈夫です。アルダさんも一緒ですから。心配ありません」
「そうか……」
アルダの最終確認を終え、ルシェはその隣を歩いた。これでようやく、彼と一緒の立場となれて、ルシェは少しだけ嬉しかった。
それから少し歩くと、村の門が見えてくる。
「……!」
あの先はもう、ルシェの知らない未知の世界だ。
そう考えると不安が過った。
しかしルシェはふと、隣を歩く彼の横顔をチラ見する。
「……うん」
「……? どうした?」
「な、なんでもないです」
ルシェは慌てて視線を反らす。
アルダには不思議がられたものの、先程までのルシェの不安は、彼を見てすぐに消え去った。
そんなことを考えているうちに、門の手前までやって来た。
アルダは足を止め、門を見上げる。
「ここを出たら、ルシェも旅人だな」
「は、はい!」
「昨日言ったこと忘れたのか? そんなに気構えなくていいから。な?」
「……! はいっ!」
「よし、いい笑顔だ。行くか。せぇ~の、初めの一歩!」
「えいっ!」
トンッ。ルシェの一歩目は軽やかに刻まれる。不安と希望に満ちた一歩目から、彼女は初めて旅人になった。
そしてこれは、世界が少しだけ前進した瞬間でもあった。