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セスタファンタジア―六つ星の幻奏―  作者: 新増レン
第一章 「世界を変える一歩」
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第一章20  『ドレスアップしよう』



 過激的な三人のメイドに身体を洗われた後、アルダはシュヴァンに案内されてドレスアップルームへとやってきた。

 そこには先程のメイド隊が待ち構えているのかと思いきや、別のメイドが待っていた。

 シュヴァンに押されて部屋に入ると、すぐに彼女がタキシードを出してくる。

 アルダはそれに着替え、メイドに髪を整えてもらうと、ドレスコードは完璧になっていた。


「おや、随分とお似合いですね」


 髪は整髪料で整えられ、アルダは少し落ち着かない気分だったが、それよりも気になったのは、シュヴァンがこの間に着替えを終えていたことだった。


(は、早いな……)


「では、開演前に会場をチェックしましょう。メイド隊との打ち合わせもあるので、ここからが本番だと思っていただいて構いません」


「は、はい」


 本来の目的を忘れかけていたが、シュヴァンの一声で集中が戻る。

 シュヴァンから言われていたことは、剣を使用せずに護衛することだったので、今は丸腰の状態。


 そこでふと、気になった。


「あの、メイド隊ってことは、もしかして先程の彼女達ですか?」


「ええ」


「素手で、戦えるんですか?」


「彼女達は、身の回りにある物をすぐに武器として使用する鍛錬を受けています。特に優秀な三人が、アルダさんを丁寧に洗ってくれた彼女達ですよ」


「……」


 顔が熱い。あの光景を思い出しかけてしまう。


「アルダさんは、メイドの本職をご存知ですか?」


「掃除とか、身の回りのお世話全般ですよね」


「正解です。しかし、現在のメイドに求められているのは、護衛力ですよ」


「は?」


「このご時世、主人がどこで襲われるのかなんて想像できませんから、いつでも戦えるように訓練されているのです」


「――で、あの三人が優秀だと?」


「ええ。彼女達は素晴らしいですよ。チームワークも、個人技も」


「……シュヴァンさん。俺はそんな話初めて聞きましたよ? それに、主人を守るのはメイドではなく衛兵とか騎士の役目だと思うんですけど」


「……おや。よくご存知ですね。確かにそうです。実はフォードが特殊なのですよ」


「シュヴァンさん、年下をからかうのがご趣味で?」


「ふふ。さあ、どうでしょう?」


 その笑いは、絶対に何か意味を持つものだった。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 そんな話をしている間に、舞踏会の会場に辿り着いた。


「うわぁ……」


 そこはとにかく天井が高く、数千人は入れるのではないかと思える場所だった。

 シャンデリラが輝き、そこら中に白いクロスが敷かれた円形のテーブルが置かれている。料理を置くのは舞踏会が始まってからなのだろう。

 しかし壁の装飾一つを例に挙げてみても、綺麗の一言で済ませられないような複雑さが感じられた。


「これ、本当に城の中ですか?」


「ええ。ここは城の地下ですから、丁度床の下は海になっています」


「はは……」


 この海上の街フォードは、確かに中央に進むにしたがって坂になっていた。

 しかしまさか、この城の地下空洞が広がっていたとは考えもしない。どんな構造なのだろう。


「ほら、彼女も既に来ていますよ」


「え?」


 シュヴァンが示した方角には、ピンクのドレスに身を包むルシェの姿があった。

 彼女もこちらに気が付いたようで、表情を明るくして近づいてくる。


「アルダさん、すごくお似合いですね」


「あ、ああ」


 返答に困っていると、シュヴァンに耳元で囁かれる。


「彼女を褒めてあげないと、紳士として失格ですよ……?」


「――あ。る、ルシェもその、すごく似合ってるぞ」


「ほ、本当ですか?」


 細身だが、どこか柔らかさを感じさせるルシェは、今まで見せたことのない肩を露出していて、雰囲気も違う。

 いつも以上に輝いて見えるのはドレスアップのせいだろうか。


「さあ、お二人の再会も果たせたところで、さっそく確認に移りましょう。実は、先日お話していた内容とは変更点がございまして――」


 そう言って、シュヴァンはどこからともなく取り出したこの会場の地図をカーペットの上に広げる。

 アルダとルシェはカーペットの上に慎重に座り、それを注視した。


「お待たせしました」


「ん?」


 そこに聞き覚えのある声が聞こえてきて、そちらに目を逸らしてしまう。視線の先にいたのは先程のメイド達で、三者三様のドレスアップがなされている。

 右から、赤いドレスのミリィ。紫のドレスのセアリア。黄色いドレスのテトラだ。

 それぞれの特徴が表れていて、とても似合っている。


「みなさん、お似合いですよ」


 アルダは躊躇いもなく、執事に注意を受ける前に褒めた。


「え、そ、そんな。お褒めの言葉、ありがたく受け取らせてもらいます。その、アルダ様もお似合いです」


 ミリィが、はにかんでそう言ったのを見てから、セアリアが接近してくる。


「な、なんですか?」


「もぅ、早く言って下されば先程は一緒に入浴しましたのよ? でも、そんなシャイなアルダ様も素敵ですわ」


 体を密着させて来るセアリアは、ドレス姿で先程よりもそのプロポーションが強調されていた。

 三人の中で一番スタイルがいいので、アルダも反応に困る。


「コホン。『セア』、少しは遠慮して」


「ミリィったら、大丈夫よ。アルダ様は三人を選んだんだもの」


「ほ、本当ですか? な、なら、メイドが必要なときはいつでも馳せ参じます!」


「あ、あの……」


 アルダが止めることも出来ず、話はどんどんエスカレートしていく。それを見てルシェは目を白黒させ、シュヴァンは不敵に笑っていた。

 二人の言い合いがエスカレートする中、テトラがアルダに近寄ってくる。


「お兄ちゃん、耳を貸して」


「え? な、なんだ?」


「いいからっ!」


 仕方なくテトラに届く場所まで姿勢を落とす。

 すると、やんわり湿っぽい感触がアルダの頬に伝わり、この場の空気が凍りついた。


「ちゅ。えへへ。これでいいのだぁ」



「「「な、なにがっ!?」」」



 そう叫んだのは他のメイド二人と、アルダだった。

 テトラの意味不明な行動に言及しようとするが、それは呆気ない形で中断させられる。


 パンパン!


 乾いた音に、注目が集まった。

 シュヴァンが手を叩いたようだ。


「お静かに。アルダさんのメイドになるという話は了解しましたから」


「ちょっとシュヴァンさん、駄目でしょ!」


「いえ。メイドは自分の決めた主人に仕える者です。三人は、いいですね?」



「はい。私、喜んで仕えます!」

「わたくしも、この身体を捧げる覚悟ですわ……やだ、大胆発言❤」

「テトラは、お兄ちゃんが気に入ったもんねっ」



「ほら」


「ほら。――じゃありませんよ! 俺、メイドを雇うお金もないし、浪人ですから!」


 しかし、シュヴァンはさらに提案してくる。


「では、必要になった時にお呼びになって下さればいいです。それまではこの国で雇いますので」


「そんな無茶苦茶な……」



「私は、それでも構いません!」

「焦らすのがお好きなんですか? わたくし、そっち方面もいけますのよ」

「テトラは難しいことわかんないけど、待てばいいんでしょ?」



 三人とも、特に異論はなさそうだった。

 そんな様子にアルダはガックリと項垂れる。


「どうしてこうなった」


「さあ? しかし、あなたがドレスを褒めたくらいでここまでなるとは、もしかするとあなたには、何か特別な力があるのかもしれませんね」


「何言ってるんですか。そんなもの無いですよ」


「そうですか。では会議に戻りましょう。時間もないので――おや? ルシェさん?」


 アルダもその言葉でルシェを思い出す。


「アルダさんモテモテですね。どうせ、私はお子様体型ですから……」


 そう言って力なく笑うと、自分の胸と三人(特にセアリア)を見比べて深い溜息をついた。

 会議が再開されるのは、それから十分後だった。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「すみません! 遅らせてしまって!」


「いえ、まだ大丈夫です。あと三十分ありますから。それでは、変更点も含めて話を進めていきましょう」


 シュヴァンの話はこうだった。

 当初の予定ではアルダ、ルシェ、シュヴァンの三人で姫の近くを防衛し、他をメイド隊が監視するというもの。

 しかし変更点はその人数配置にある。


「三人が固まって行動するのは、他のお客様には目立つ行動になります。それに、今回は国王様がアルダさんとルシェさんの身元を知ってしまってはいけません」


「それは、どうしてですか?」


「国王様は異国人を毛嫌いしておりますので、目立たずにさり気なく舞踏会を楽しんでもらいます。そこで、姫様には商人のフリをして話しかけてもらいたいのです」


「――というと?」


「長くもなく、およそ三分から五分程度ですね。その時間、姫様の傍に来ていただければ、他のお客様にも不自然に思われません」


「確かに……」


「ですから、主に護衛はわたくしが。他の皆さんには怪しい人物の監視をお願いしますが、もう一つ注意点があります。それは、複数人でパーティを楽しんでもらいたいということです」


「つまり、この中でチーム編成をするってことですか?」


「そうなります」


「あの、ここにいるメイド隊は、国王様に面が割れていないんですか?」


「それは大丈夫です。特別に、国王様にも知られていないメイドを厳選しましたので」


 なんだか怪しい物言いだが、指示に従うことにする。


「では、話しかける時もチーム単位で?」


「そうしていただきます」


 そしてこの場面でメイドの一人が挙手をした。セアリアだ。


「もしも怪しい人物を見つけた場合は、以前の案と同じ方法で知らせますの?」


「ええ。お願いします」


 アルダはそのやり取りに気になって、隣で話を聞いているミリィに訊ねた。


「事前に決められた合図では、シュヴァンさんがわかるように、近くの男性と踊りを始めることになっているんです」


「へぇ。確かに怪しまれないで済むなぁ」


「――では、チーム分けをしましょう。すみませんが、怪しまれないために、お二人は離れ離れになります。よろしいですか?」


 アルダはルシェの方を見る。

 ルシェがダメだというのならば、他の案を考えてもらおうと思ったが、思いの外、彼女は人見知りの性格を発動していなかった。


「メイドさんと一緒なら、大丈夫です」


 大丈夫なようだ。


「そうですか。では、ここは公平にジャンケンにしましょう。一人はアルダさんと。二人はルシェさんと組むことになります」


 その人数割りの理由を訊ねると、自然な比率だからだとシュヴァンは言う。

 確かに、一人の男に二人の女性で舞踏会に来るのは少し奇妙だ。それならば、夫婦や兄妹と偽れる一対一と、女友達や三姉妹に見える三人が割合としてはいい。


「では、成功させましょう」


 その言葉の数十分後に開場され、多くの人がやって来た。

 姫様護衛ミッションスタートだ。












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