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セスタファンタジア―六つ星の幻奏―  作者: 新増レン
第一章 「世界を変える一歩」
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第一章18  『姫も愚痴を言う』

 


「姫様、これを」

「ありがとう、シュヴァン」


 肩の凝る会食を終え、ソフィアはようやく自分の部屋で休憩できた。

 出迎えた執事が淹れてくれた紅茶をすすり、深い溜息をつく。


「どうなされました?」


「どうもこうもありません。最悪の会食でしたわ……」


「そうですか」


「……む。どうして主人が最悪という感想を述べたのに、あなたはニコニコとしていられるのですか?」


「執事ですから」


 彼の執事基準が変なのは昔からだったから、特に気に留める必要もないのだが、なんとなく疲れたことを馬鹿にされているようで不快になった。


「姫様、明日は舞踏会ですよ」


「――!」


 ソフィアは、その言葉でようやく元気を取り戻せた。

 今日の不快な出来事のせいですっかり記憶から抜けていたのだ。


「シュヴァン、それを早く言ってください!」


「いえ。……ですが、どうして最悪だったのですか?」


 ソフィアは屋根付きベッドに横になり、敢えて顔が見えないようにして執事に打ち明ける。


「お父様とお母様は、私の気持ちを察してもくれませんでした」


「……」


 シュヴァンは、口を挟んでこない。


 彼はこういった家族問題に関わることだって何度かあった。

 彼は、いつでもソフィア側に味方してくれる。

 王宮に務めている人達だってそうだ。

 大臣職を除けば、全員がソフィアを支持していると言ってもいいほどに、彼女は信頼されていた。

 逆に言えば現段階の王である父親の支持は、その支持を愕然と下回る。

 これは、ソフィアも理解している問題の一つだ。


 しかし今回は違う。

 結婚の問題は城の内部だけでなく、国の問題でもある。


「私は、あのような品のない方とは結婚したくない。けれども、それが叶わぬということが苦しいのです」


 今日なよ会食で、アスベリック家の長男にあたる「ヘカドル=アスベリック」は、たるんだ頬を揺らし、下心が満載の卑しい目でソフィアのことを舐め回すように見てこう言った。


『これが、将来僕のお嫁さんですか。ふふ。楽しみですねぇ~』


 まったく知性のない言葉の羅列に、思わずその場で言い返したかったが、無理だった。


 そのような問題を、面と向かって打ち明けるのは厳しかった。

 話してる最中に感極まって涙が出てくるかもしれない。


 別に「あなたを奪い去ってここから逃げましょう」――なんて答えを期待しているわけじゃない。

 ただ、同情を買いたかったわけでもない。

 誰かに打ち明けたかっただけだ。


 姫として失格の心を、この国を導くために受け入れることをしない自分を、知ってほしかった。


「……シュヴァン、どうしたらいいのでしょうか?」


「……」


 シュヴァンの顔が見えず、ソフィアにはその沈黙が長く感じられた。


「大丈夫です」

「え……」


 しかし、聞こえたその言葉にソフィアは驚いた。

 すぐに体を起こすと彼は微笑んできた。


「わたくしには、その結婚に反対する権利も身分もありません。しかし姫様、あなたにはその力があるじゃないですか。民衆の声を聴き、幼き頃から期待されたあなたなら、そんなわがままを言ったところで国に影響はありません」


「シュヴァン……?」


「嫌なことを受け入れるのが国のためならば、あなた自身の意見はどこで尊重されるというのですか。……もし国王や貴族達があなたを壊すというのなら、わたくしは彼らを一人残らず殺します」


「……な、何を言っているのですかっ!?」


 気が狂ったのかと思いたくなるその言動は、彼の目を見て核心が生まれる。

 冗談や一時の気の迷いではなく、その顔はまさに、出会った当初と変わりない顔だった。


「シュヴァン?」


「あなたには国を導く才があると信じています。だからどうか、わたくしの手を汚さずに解決する策を見つけ出してください」


「……それって」


「クローゾフ家とアスベリック家の関係を絶ち、この国の未来を明るくする方策。あなたならきっと見つけられます」


 その目は先程とは違い、温かさに満ちていた。


「どうして、私をそこまで評価するのですか? 私は姫としては失格じゃ――」



「確かに姫としては失格かもしれない。しかし王としてなら、この国を導く存在としてなら、あなたはどの国の王よりも凄まじく、この世界を救えるはずです。それは、十年もの間仕えてきたわたくしが保証します。あなたの善意は、民衆を救えますよ」



「そんな……」


「時間はまだあります。まずは明日の舞踏会を楽しんでください。そこで彼らの話を聞けば、きっと決心がつくでしょうから」


「彼ら?」


「ええ」


 シュヴァンはそう言って軽く微笑むと、部屋を出て行った。


 今までも心を見透かされてきたようなことがあった。しかし今回は全く違う。

 思ってもみないことを提案された。

 ソフィアはどうしていいのかわからず、またベッドに寝転がる。


「明日の舞踏会を楽しもう……」


 独り言を呟き、そのまま目を閉じた。









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