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セスタファンタジア―六つ星の幻奏―  作者: 新増レン
第一章 「世界を変える一歩」
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第一章17  『弟を捜そう』

 


 仕事を終えて、アルダとルシェは旅館へと戻った。

 夕食と入浴を済ませ、二人は畳づくりの部屋に敷かれた布団に座っている。


「明後日か」


 ふと呟いたアルダの言葉に、ルシェはナップザックを整理する手を止めてそちらに顔を向ける。


「明後日?」


「舞踏会だよ。……ルシェは、どうして賛成したんだ?」


「えと、困っているようでしたから。……勝手、でしたよね」


「まあ、そんなことはない。俺も迷ってたから、背中を押してくれて助かったよ。よく考えてみれば、あの人と少し話したかったし、一国のお姫様に会える機会なんて滅多にないからな」


「そうですよね。楽しみです!」


 舞踏会用の衣装はシュヴァンが用意してくれるらしいので、ルシェ達は当日の舞踏会が開催する二時間前に入城すればいいとのことだった。


「楽しむのはいいけど、明日は午後からの仕事までに少し動くからな」


「動く、ですか?」


「忘れたのか? 俺の旅の目的は弟の捜索だ。こんな大きな町なら情報が転がってるかもしれないって言ったのはルシェだろ?」


「あ、そうでした。えへへ」


 笑って誤魔化す。

 本気で忘れていたとは言えなかった。


「そ、そうだ」


 話題を逸らすべく、ルシェが思いついたのは船上での話の続きだった。


「この前話してた傭兵団って、何なんですか?」


「そういえば、そんな話もしてたな。傭兵団っていうのは、文字通り傭兵が組織する団体のことだ」


「あの、傭兵というのは?」


「簡単に言えば、便利な兵士ってところか。騎士とは違って傭兵は自由が利くから、国を渡り歩くこともできるし給料は腕前によって違う。実力が求められる集団だ」


「依頼も、傭兵にしか受けられないものがあるって言ってましたよね?」


「ああ。命懸けの仕事なんかは奴らを頼るしかない。例えばそうだな、最近は獣の討伐なんかが主流らしい」


「獣の狩猟って、安全じゃないんですか?」


 ふと浮かんだ疑問をぶつけると、アルダは首を横に振る。


「この場合、獰猛な肉食獣を数匹以上相手にするんだ。危険だろう?」


「こ、怖いですね」



「傭兵団は、そんな危険な依頼を受注する傭兵達を管理している組織なんだ。

 それに傭兵にも種類があって、盗品を取り返すことを専門にしている奴もいれば、獣の討伐に精を出している奴もいる。どんな依頼を受けるかは個人の自由だが、所属している以上は依頼を受けなければ解雇される。結構、シビアな組織なんだぞ」



「へぇ……」


「さあ、もう寝よう。明日は早くに出発だからな」


「はい!」


 ルシェも納得したところで、眠りにつくことになった。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 翌朝、商店の開店と共にアルダ達も行動を開始した。

 まだもう二泊あるので、荷物のほとんどは部屋に置いてきて、二人はメインストリートを歩くことにした。


「さすがメインストリートです。あちこちに色々な店がありますよ」


「とりあえず新聞屋で情報収集だな。弟の捜索をするにあたって世界の情勢を知っておくのは基本だ」


「弟さんが新聞に載るんですか?」


 その質問には、アルダもさすがにこけそうになった。


「あのな、もしも載るとしたら犯罪者か功績を立てた人物としてだ。よっぽどじゃない限り有り得ない。いいか? 俺達は世界中を歩き回るだろう?」


「はい」


「その為には、どの国でどんな事が起こっているのかを、把握しておかなきゃいけない。目的の街で暴動が起こっているのだとしたら近づけないし、定期船にも影響が出るからな」


「わぁ、そう考えるとそうですね!」


 二人はそんな会話の後に新聞を購入した。

 ざっと目を通し、アルダはそれを新聞屋に返す。

 こうすることで、何割か金貨が戻ってくることになっている。


「どうでした?」


「ま、特に大きなことはないな。次へ行こう」



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 今度はメインストリートを避けて二区に行くことにする。

 そこには騎士団の施設があり、施設には各国の死亡者リストが掲示してある。

 今まで弟の名前は載ったことがなく、アルダは少なからずどこかで生きていることを実感できていた。

 このリストには名前だけが記載されていて、人権の保護のために性別は記載されていない。

 しかし、遠く離れている者にとってこれ程の情報源はない。通信手段の乏しいこの世界では、こうした七か国連盟の管理する世界的機関が役に立っている。


「あの、アルダさん」


 向かう途中に、ルシェが訊ねてきた。


「そういえば私、弟さんの特徴とか知らないんですけど、何かあるんですか?」


「俺も最近の写真があるわけじゃないから探すのも困難なんだ。唯一わかっているのは、名前とこれだけ」


 アルダがそう言って取り出したのは、欠けたペンダントだ。


「なんですか? それ」


「この片方を、弟が持ってるんだ。別れる時に二人でそう決めたんだよ。どんな時でもこのペンダントを持つ。ってな」


「……じゃあ、そのペンダントを持っている人が」


「俺の弟、あるいは弟からペンダントを奪った盗賊だな」


 二人はそのまま騎士団の施設に向かうが、例のリストに名前が載っていないのを見て安心した。


 それから街の商人達に聞いて回るが、思ったような情報を得ることが出来ないばかりか、ペンダントを買い取りたいと言い出す商人までいた。


 時間になり、二人は仕事場へと向かうことにする。


「大丈夫ですよ。きっと見つかります」


「そうだな。……昼食済ませてから行くか」


「はい!」


 四区へと向かう街路の途中でホットドックを買い、近くの休憩所で食べた。その後、服屋でのアルバイトをこなして旅館へと戻った。










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