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セスタファンタジア―六つ星の幻奏―  作者: 新増レン
第一章 「世界を変える一歩」
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第一章15  『踊りませんか?』

 


「「うわぁ……」」


 アルダ達はフォードに到着し、まず初めは人の多さに息を呑んだ。

 それからメインストリートを通っていき、区画整備された町の案内図を中央広場で確認する。

 次に、宿泊施設の密集する第三区へと行き、なるべく手頃な宿をとることにした。


「ここでいいか」


「はい」


 旅館「鳥の宿」は、サービス産業の中でも小規模の団体が経営している宿で、アルダ達のような懐の寂しい旅人にはありがたい施設だ。

 なるべく安く済ませたいのなら、こういった無名の宿に泊まるのが鉄板。

 宿泊施設を運営する団体の代表組織「やすらぎ商会」が経営する世界規模の支店には絶対に泊まらない。


 商業団体のうち、サービスを取り仕切る筆頭組織は四つある。


 宿泊関係の「やすらぎ商会」。


 物品の売買を取り仕切る「太陽商店街」。


 新聞やその他の方法を用いた情報の発信源「見聞の番」。


 物や人をあらゆる方法で運ぶ世界唯一の運搬機関「アスカトレード」。


 これらは七か国連盟と協力関係にあり、各王国の融資によって組織を保ち、融資の多い国が、その商業機関を優先的に多く配属できる。

 ここフォードでは、特にサービス団体と海産団体に力を入れているのが有名だ。


 二人は決めた旅館へと入り、奥からやって来た女将に宿泊料を訊いた。

 個別に泊まるよりは、二人で一部屋に泊まった方が安価で済むということなので、一部屋に泊まることにし、大方の荷物を部屋に置いてから旅館を出る。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 次に向かった場所は、またメインストリートにある中央広場。そこには依頼掲示板が置かれており、この街の人々の依頼が書面で張り出されている。


「結構あるなぁ」


 アルダは掲示板を大方吟味する。

 ルシェはそんなアルダの後ろをチョコチョコとついて歩いていた。

 傍から見れば、何をしているのかと疑問に思われただろうが、二人は真剣に、生計を立てるべく仕事を探している。


「お、これなら今日と明日で金貨三十枚か。やっぱり都会は物価が高い分、給料もそれなりだな。ルシェ、これはどうだ?」


「アルバイト募集? アルバイトって何ですか?」


「要するに、仕事の手伝いみたいなもんだよ。場所は四区のサービス店。衣服を専門に売っているお店らしい」


「な、成程」


「じゃあ、行くか」


「はい!」


 初めての農作業以外の仕事に興味津々なのか、ルシェは向かう途中、大勢の人に臆することなく、アルダの隣を鼻歌交じりに歩いていた。

 港に着いたときは、すぐにでも卒倒しそうなほどに青ざめていたというのに……。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 四区には、しばらく歩くと到着した。

 目的の店を見つけて中に入り、店長と思わしき女性に声をかける。店は思ったほど広くなく、この街では小規模すぎるスペースだった。しかし、客は何人かいる。

 店長に紙を見せて話しかけると、明日までの契約を承諾してもらえた。


「じゃあ、あなたは服の整理をお願いね。そっちの彼女は、彼のサポート」


「「はい」」


 二人は手順を教えてもらい、早速作業に取り掛かろうとしたところ、後ろの扉が開く音に反応し、挨拶した。

 そこに立っていたのは、燕尾服を身に纏う銀髪の紳士だ。


「「いらっしゃいませ!」」


「おや? 初めて見る店員さんですね」


「あらシュヴァンさん、例の服を取りに来たの?」


 店長が何やら気さくに話し始める。

 アルダはルシェに目で合図を送り、その場を離れて奥の部屋で服の整理を始めようとしたのだが、なぜか今の客が声をかけてきた。


「お二人は、旅の御方なんですか?」


「な、なんでそれを?」


「店長さんから聞きました。……成程、良い目をしておられますね」


「は、はぁ」


「おっと、自己紹介が遅れました。わたくしは『シュヴァン=ロスト』。この町の中央に城があるのはご存知ですか? わたくしは、そこで姫様の執事を務めさせていただいております」


「この御方はね、うちのお得意様なんだよ。二人とも、仕事は後にしてお話を聞かせてもらうといいよ」


「で、でもそれだと――」


「旅してるんだろ? こんな機会は滅多にないんだから。ね?」


 婦人はそう言って、奥の部屋へと消えていった。


「あ、アルダさん、どうしましょうか?」


「どうって言われてもなぁ。……あのご婦人は、いつもあんな性格なんですか?」


 アルダは恐る恐るシュヴァンに問いかける。

 その見た目から年上であることは把握できたので、一応、敬語を使った。


「そうですね。豪放磊落なご婦人です。しかし、店の長が良いと言ったのですから、お言葉に甘えてもいいと思いますよ?」


 細身で長身のシュヴァンは、切れる様な細長い目を和らげ、微笑んだ。

 アルダとルシェは店の休憩用のベンチに座り、お言葉に甘えることにした。


「あの、お姫様ってどんな方なんですか?」


 何を気になっていたのか、ルシェが開口一番に訊ねたのはそれだった。


「そうですねぇ。本音を言ってしまえばわたくしは解雇されますし、世間一般のお姫様らしくない。とだけ言っておきましょうか」


「へぇ……」


「わたくしも、いいですか?」


 シュヴァンの目がアルダと合う。


「ど、どうぞ」


 何を質問されるのかわからず、緊張が走った。

 もしかしたら、国際問題が議題になるかもしれないし、ここまで来た交通手段を問われるかもしれない。

 しかし、シュヴァンの行動は予想とは反していた。


「これを街で見かけましたか?」


「?」


「アルダさん、街中に貼ってあったのに気付かなかったんですか?」


「全然……」


「はは。その通り、街中に貼ってあります。え~と」


「あ、は、その……あの」


 名前を名乗りたかったのだろうが、ここへきてようやくルシェの性格が戻ったようで、頬を染め上げ、アルダの陰に隠れるように身を縮めた。


「?」


「ルシェ、ほら」


「む、無理ですぅ……。今まではアルダさんと喋ったりしていて忘れていたんですけど、やっぱりすぐに話すのは難しいです~~」


「……はぁ。すみません。ルシェは人見知りなんです」


「そうでしたか。こちらこそ、執拗に話しかけてしまいましたね」


「いえ。こっちはルシェ=フロランナ。俺はアルダ=メンシアです」


「……」


「どうかしましたか?」


「いえ」


 シュヴァンの顔からは、一瞬の戸惑いを感じられた。

 アルダはその瞬間を見過ごさなかったが、構わず続けることにする。


「これって、いわゆる舞踏会ってやつのポスターですよね?」


 シュヴァンから紙をもらい、そこに書かれた文字を正確に読み上げた。どうやらそれは、誰でも参加できるこの街の舞踏会の案内だったようだ。


「でも、これがどうしたんですか?」


「ええ。訊ね返してしまいますが、あなた方がここで仕事をする理由は、旅の生活を維持するための資金稼ぎと聞きました。そうですよね?」


「は、はい」


「実はその件でお話がありまして。この舞踏会は異国民であろうと誰であろうと参加できる舞台なのです。開催場所は、ウミネコ城。勿論、色々な御方がお見えになるでしょう」


「それは、そうですね」


 頷くのが精一杯で話の意図は全く掴めない。ルシェも同様だった。


「当然わたくしも参加しますし、姫様も参加なさいます。――というより、姫様はこの舞踏会を楽しみにしておられる。ですから、最悪の舞台にはしたくありません」


「――と、いうと?」


「成功させるには、姫様や参加者の方々が安全に楽しんでもらうことが前提です。しかし、それをよしとしない連中がパーティに紛れ込む可能性も否定できません。そこで――」


 その溜めには、息を呑む間もなかった。



「あなた方に、姫様の護衛を頼みたいのです」



「――!? どうして俺達が?」


「実は、この舞踏会は騎士禁制の場なのです。騎士を配置した中で踊るのは、気分の良いものではないという意見がありまして……。そこで、会場に参加しながら姫様を守っていただきたいのです。勿論、報酬は弾みます」


「で、でも、いきなりそんな――」


 アルダが戸惑いを隠せない中、服を掴んでいる手がぎゅっと握られる。


「る、ルシェ?」


「やりましょう! アルダさん!」


「……どうして、そんなにやる気なんだ?」


「お姫様のピンチです!」


 まだピンチと決まったわけではない。

 しかし、万が一という言葉がルシェの一言で頭を回り始めた。


「……シュヴァンさん、受けてもいいですけど、どういった作戦なんでしょうか?」



「実は、メイド達にも手配済みでして、舞踏会会場にはわたくしの部下と自身を含め、十名ほどの護衛がいます。舞踏会の会場は広いですし、メイド達には場内の人物を監視してもらい、わたくしが姫様の傍でエスコートします。あなた方には、わたくしと同じ役目を頼みたいんです」



「つまり、姫様の傍にいるってことですか?」


「はい。そうなります」


 それを聞いたアルダは、熱意に燃えるルシェと静かに返答を待つシュヴァンを交互に見て、仕方なく頷いた。


「わかりました。受けます」


 思惑がないわけではない。

 だが、それよりもルシェの意見を尊重したかった。

 旅を始めて、初めて彼女の我が儘に付き合うことにした。













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