第一章13 『二度目の出立』
夜。その日のルシェは眠れなかった。
それは、アルダから話を聞いて複雑な気分だったからだ。
アルダは約束を本気にしていない様子だったが、ナインは違う。ルシェはそれを知っていた。
「はぁ……」
こないだアルダの小さい頃の写真を見せてもらった時、一緒に写るナインの姿も見た。そこに写る二人はどの写真でも仲がよさそうで、その写真からルシェは感付いた。
ナインがアルダを好きなのは、二年前に始まったことではない。それ以前からのことだ。
しかし、当のアルダはそれに気付いていない。
「……」
ルシェは天井を見つめる顔を横に向け、壁際のベッドに眠るアルダを見た。
「すーすー」
寝息が聞こえてくる。
彼はぐっすりと眠っているようだった。
ルシェは彼から目線を逸らし、布団の中に顔を埋める。
どうしたらいいのかわからず、尚且つ、自分が干渉していい問題とは思えない。
色々な考えが渦巻く中、次第に眠気が勝っていき、意識は潜ってしまった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「準備いいか?」
「はい……あの、本当に挨拶無しに出て行くんですか?」
「ああ。それでいい」
「……そうですね」
ルシェはモヤモヤした気持ちを払拭するように頭を振り、今日から再開する旅に向けて気合を入れ直すことにした。
家を出てアルダが施錠する。
その間にも、ルシェはそわそわとしながら辺りを見渡すが、ナインの影はおろか、村の住人すら見当たらない。
それもそのはず、今は朝の三時。
あまりにも早すぎる出立だった。
村の門をくぐるまで辺りを注意深く見まわしていたが、とうとうナインは現れもせず、ルシェ達はそのまま村を出て行くこととなった。
滞在期間にして十数日。短い滞在となった。