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セスタファンタジア―六つ星の幻奏―  作者: 新増レン
第一章 「世界を変える一歩」
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第一章10  『禁句』

 


 あの後、どうにか収拾がつき、あっという間にナインとルシェは仲良くなっていた。

 ルシェにとっても、ナインは接しやすいタイプだったのだろう。


 今は、アルダの家に三人が集合していた。


「ナイン、仕事はいいのか?」


「ああ、あんなもんいいのよ。どうせ村の中でやってても、客なんて全然いないし」


「どうして都心で店を開かないんだよ。お前の腕なら大丈夫じゃないのか?」


「まだまだよ。それに――」


「?」


「なんでもない。それにしても、どうしたの? 急に帰ってきたりなんかして」


「俺にも思う所があったんだ。しばらくは滞在する」


「何日?」


「さあな。――でも、一か月以上いるつもりはない」


「ふうん。その後は、旅を続けるの?」


「そうなるだろうな」


 ナインはその言葉を聞いて少し黙った。

 それからルシェの方を一瞥して、また沈黙を置き、アルダに向き直る。


「ねぇ。騎士の試験、もう一度受ける気はないの?」


 その質問に、アルダは眉一つ動かさずに即答する。


「ないな」


「でも、それで本当にいいの? だってあの時は――」


 ガタッ!


「アルダさん?」

「アルっ!」


 二人の声を聞き流すように、アルダは席を立って玄関へと歩いていった。


「ちょっと出かける」


 そう言い残し、家を後にした。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「え、えと……」


「はぁ……」


 残されたルシェは、険悪な空気のなか、非常に気まずかった。


「あの、ナインさん。追わなくていいんですか?」


「いいのよ。アルもまだ、整理できてないみたいだし……。あたしもダメよね。イヤなこと訊いちゃった。幼馴染失格よ。……どうしていつも、こうなるんだろ」


 ナインはそう言って悔しそうに俯く。


「あの、さっきの話って?」


「あ、あぁ。騎士試験のことね」


 ルシェは頷いた。あえてそれ以上言及しない。


「騎士のことは知ってる?」


「こないだ、アルダさんに教えてもらいました。この世界の秩序を維持するための組織って」


「概ねその通りね。じゃあ、その騎士になるには、どうしたらいいか知ってる?」


「それは……」


 視線を逸らしてしまった。それは聞かされていない。


「わかった。そこから話すね」


「お、お願いします」


「騎士になるには、王国騎士団に入る必要があるの。王国騎士団っていうのは、各国が設ける国防組織のことね。規定の修練を積んだ者しか入れない組織で、中でも騎士大国の王国騎士団は千人に一人しか受からない狭き門って言われてるわ」


「つまり、どういうことなんですか?」


「国を守るのが王国騎士団に属する騎士の役目。でも、そんな責任感ある仕事、誰にでも任せられないでしょ?」


 ルシェは、とりあえず頷いた。


「だから、騎士になるためには各王国の定めた試験に合格する必要があるってこと」


「アルダさんは、その試験を受けたことがあるんですか?」


「ええ。騎士になるためにすごく頑張ってた。絶対に騎士になるんだ! ――って言ってね」


 そう話すナインは、どこか懐かしそうで、遠くを見つめている。

 だが、ルシェはすぐにアルダが騎士でない理由を思い浮かべた。


「……試験に、受からなかったんですか?」


 その問いに、ナインは小さく頷く。


「試験の当日ね、アルのお母さんの体調が急変したの」


「え……」


 そんなことは想像もしていなかった。

 ルシェは思わず、言葉に詰まる。


「試験に集中できなくて不合格。数日後、お母さんは……」


「そ、それじゃあ、アルダさんはもう二度と、騎士にはなれないんですか?」


 ナインは首を横に振る。

 しかし、顔は晴れ晴れとしていない。


「また受けることは出来る。二十五歳までなら何度でも挑戦はできるの。それに、アルなら絶対受かる。剣術も知識もあるから、試験なんて余裕なのよ」


「じゃあ――」


「でも、さっきの反応を見たでしょ?」


「――!」


 ルシェは思い出す。悲しげな表情のまま、一言を残して出て行った彼の姿を。


「どうして、なんですか?」


「実はね、アルは騎士になるために近くの町まで歩いて学園に通っていたの。あたしもアルも、そしてあいつも。三人一緒に仲良く通ってた」


「あいつ?」


「そ。あたしとアルの友達。その彼も、アルと同じ夢を抱いていたのよ」


「それって、騎士になるっていう」


「うん。なんか、一緒になろうって約束してたらしくてね。でも、なれたのは彼だけだった」


「……!」


 ナインは、重苦しい表情を浮かべていた。

 それは何かを意味するようだが、ルシェは訊ねることができない。踏み入ってはいけない気がしていたからだ。


「そうだ!」


「……?」


 ナインは、そんな空気を一新するかのように明るい声を上げ、別の話題を振ってくる。


「アルの小さい頃の写真があるの。ウチに見に来る?」


「で、でも、ここを離れたらアルダさんが――」


「大丈夫よ。あいつだって、あたしがついていれば安心でしょうし」


「そ、そうですか?」


「そうそう。さ、行きましょ!」


「わっ!」


 ナインに催促され、ルシェは仕方なくついていくことになった。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「……ここか」


 アルダは、村から少し離れた何もない草原の上に立ち、二年前の出来事を思い出していた。

 目を瞑ると、鮮明に当時のことを思い出す。



『何もかも手に入るお前にわかるもんかっ! どうしてお前なんだよ!』



 親友に別れを告げるとき、彼はここでそう叫んだ。

 あの時、初めて見たわけでもない泣き顔なのに、少し違和感を覚えた。

 そして、その後は何もなく、二度と会うこともなかった。

 彼は、ミレージュ王国の騎士団所属になったことだろう。確認してないが、多分そうだ。


「……懐かしいな」


 あの激怒の理由は、今でもわからない。

 アルダは風を感じて、そのまま寝転がってみた。


 空は、あの時間と同じく高い。

 雲は、あの日と違って白い。

 風は、あの一瞬と違って冷たさを感じなかった。


 思えば、旅立ったのは春だった。どおりで夏の終わりには、何も感じないわけだ。


「このままで、いいのか?」


 この村で栽培農家を営む選択だってある。

 ナインの言うように、騎士試験をもう一度受ける資格だってある。


 しかし、アルダには決心がつかなかった。


 そしてなし崩し的に、どこかを目指してただ歩き続けることを選ぶのだろうと悟った。

 帰ってきても心境に変化はなく、したいことが見つからない。


「もし旅を続けたら――」


 ふと、弟を見つけ、旅の目的を完遂した瞬間を思い浮かべてみる。


「次に、俺は何をすればいいんだ……」


 そしてまた、自問自答のループに引き返すのだった。



 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



「……?」


 草原で小一時間寝てから、アルダは家に戻った。

 しかし、そこに二人の姿は見当たらない。


「どこに行ったんだ?」


 そんな疑問を抱いている最中、後ろで物音が聞こえる。


「あ、アルダさん。た、ただいまです」


「おかえり。どこかに行ってたのか?」


「えと、ナインさんと一緒に村を見て回ってました」


「そうだったのか。どうだ? 何もない村だっただろ?」


「……正直、私の村と遜色ないですね」


 そう言って、彼女は小さく笑う。


「だろうな」


 玄関から入ってきて、ルシェは椅子に腰掛けた。

 そして二人は食事をどうするか相談し、港町の店で買ってきたパンを食べることにする。

 その後まもなく、疲れも限界に達し、眠ることにした。










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