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第二話 ウ○シマ太郎 壱

 時はむかしむかし、所はいずこか、名もなき海岸。


「ふぇぇ~~ん! ひっく! 登れ……ない~。ひっく!」

 海岸のどこからか、女の子の泣き声が聞こえてきました。

「あ~やっぱりここかぁ~」

「ふぇ?」

 周りが岩で囲まれた地面に落ちた女の子は、上から降ってきた男の子の声に顔を上げました。

「お~い! この釣り竿につかまれ!」

 男の子は女の子に向かって自分の釣り竿を差し出しました。


 岩の上に座る男の子と女の子。

「いい加減泣き止めよ……ほれ! これを食え」

 男の子は女の子に向かってあめ玉を差し出しました。

「あ、ありがとう……」

 男の子に向かってぎこちなくお礼をいいながら、女の子は手にしたあめ玉を口に入れました。


「(ガジッ!)……いたい! かたいよこれ」

「ば~か! 口の中でめるんだぞ」

「舐める……あ、あまぁい!」


「へっへっ! おめぇ、よそもんだな?」

「え? なんで……わかるの?」

 女の子は眼を丸くし、自分の着物の隅々まで眼を向けました。

「あそこに落ちて出られなくなってもよ、そのうち潮が満ちれば浮かんで登れるからな。みんな知っているぜ!」

「そう……。な、なあんだ。そ、そうなんだぁ」

 女の子の目頭はまだ腫れているけど、強がるように笑顔を向けました。


「どうせ祭りを見に来たんだろ? どっから来た?」

「う~ん……あっち!」

 女の子の指差す先は、目の前の大海原でした。

「へぇ~船に乗ってやってきたのか。一人でか?」

「……はぐれちゃった」

 女の子の顔は再び泣きそうになります。


「んじゃ! 探しに行くか! どうせおめぇの親も祭りに来ているんだろ?」

 男の子は立ち上がり、女の子に向けて手を差し出しました。

「……うん!」

 女の子は男の子の手を握ると、勢いよく立ち上がりました。


「俺はウラシマって言うんだ! おめぇの名は?」

「おと……う~ん……ヒ、ヒメ!」

「ヒメ!? お姫様ってか? まぁいいや、いくぞ!」

「うん!」


 祭り囃子が舞い踊る神社の境内。

 いろいろな屋台に女の子の目は釘付けになります。

「あ、あれ食べたい! トウモロコシ!」

「ねぇウラシマ! あれなぁに? お空の雲みたい! 食べられるのかな?」

「わたがしっていうんだ。おいヒメ! 少しは遠慮しろよ!」

「へっへ!」

 ヒメは”ぺろっ!”っと舌を出しますが、もっと見たいとばかりにウラシマの袖をつかむと屋台の列の奥と引っ張っていきます。


「ったく、おっかあからの小遣いが全部ヒメに食われちまったぜ」

「ねぇウラシマ。この建物はなに?」

「これか、海の中にいらっしゃる龍神様をまつっているのさ」

「りゅうじん……さま?」

「ああ、海の底に龍神様が住んでいるお城があって、大人達は龍宮城(りゅうぐうじょう)って呼んでいるんだ」

「りゅうぐう……じょう」

「おっと、そろそろだな。ヒメ、こっち来いよ。今からスゲーのを見せてやるぜ」


 高台に座るウラシマとヒメ。

「ウラシマ。真っ暗な砂浜と海しか見えないよ」

「まぁみてなって」


”ヒュ~~~ドーーーン!”


「うわぁ! 花火!」

「どうだ! スッゲーだろ!」 

「すっごーーい!」


”ヒュ~~~ドーーーン!”

”ヒュ~ヒュ~~ドードーーンーン!”

”パラバラパラバラ!”

”ヒュヒュヒュ~~~ドドドーーーンンン!”


「祭りで花火が上がる時は、ここが俺だけの特等席さ。ありがたく思えよ」

「うん! いつもは”海の中から”しか見たことないから……」


”ドドーーーンン!”


「え? なんだって?」

「こ・ん・な・に・ち・か・く・で・見・た・の・は・は・じ・め・て!」

「そうだろ! しっかり目に焼き付けておけよ!」

「うん!」


 花火も終わり、辺りに静寂が訪れる。

「そういえばヒメのおとうとおっかぁを探すの忘れてたな。神社に戻るか」

「……呼んでいる」

「え?」

「あたしを呼んでいるの」

「そうか? なにも聞こえないけど……」

「ありがとうウラシマ、あたし、もう行くね」

「お、おう、気をつけてな」

 ヒメはウラシマに背中を向けると暗闇に向けて駆け出しますが、すぐ戻ってきました。


「今日はありがとう。お礼にこれをあげる」

 ヒメは首に掛けていた貝殻の首飾りを手に持つと、ウラシマの首に掛けました。

「お、おう、ありがとな」

「バイバイ~ウラシマ~! ”またね~!”」

「おう! ”またな~!”」

 ウラシマはヒメの背中が見えなくなるまで、後ろ姿を見つめていました。


「ヒメか……ひょっとしてヒメって、龍宮城にいる”オトヒメ”なのかもな。ま、まさかな~」

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