第四話 か○や姫 九節
SNS上では、ちくりんちゃんへの誹謗中傷が日に日に増えていきますが、かぐやは普段と変わらずに露天場所で竹林点店の宣伝と竹炭の効能を説明し、最後に七匹のガチョウたちといっしょに歌と踊りを披露しました。
芝刈りのじいさん以下、村の男衆も昼間なのにちくりうむを振って応援し、媼も柴狩りのばあさんや村の女衆と協力して竹林点店にちくりんちゃんの専用ページを造り、媼がこれまで撮ったかぐやの写真を、ちくりんちゃんの顔に若干加工しまして貼り付けました。
それでも通行人からは何の反応も得られず、露天場所では陰口が聞こえる日々が続き、天下一演芸会の開催日も刻一刻と迫ってきましたが……。
『ハッハッハ! これは愉快! これは痛快! 姉様とガチョウが踊っちょる!』
ある日、刈り上げに菱形の腹かけをした男児が、かぐやとガチョウの歌と踊りを見て、腹を抱えて大笑いしていました。
その笑いは露天場所だけでなく、まるで都全体に轟くほど豪快なものでした。
柴狩りのじいさんたちは一瞬ムッとしましたが、かぐやとガチョウたちは歌と踊りを続けます。
あまりの笑い声に道行く人が男児の周りに集まってきます。まるで自分たちが口に出して言えない事を、この男児が代弁してくれるかのように……。
しかし、男児の言葉は全く別のものでした。
『ハッハッハ! 都人とは不思議なものよ! こんなおもしろいものを、ハッハッハ! 顔をしかめながら通り過ぎるなんて! ハッハッハ! よっぽど腹になにか、ハッハッハ! ”含んで”いるのかやぁ!』
幼く澄んだ声、それでいて力強く放たれる笑い声は、まるで都の人の心に絡まったイバラのツルを断ち切るようでした。そしてバツが悪そうに一人、また一人と離れていきます。
歌と踊りを見終わった男児は自己紹介をします。
「”この噺”の都のそばには”ぐりずりい”なる熊がいると聞いてな、ちょっと相撲を取ろうとやってきたんだ。しかし、姉様の歌と踊りの方がおもしろかった。では達者でな」
堂々とした足取りで立ち去る男児を、翁や媼、芝刈りのじいさん達は口を半開きで見送りました。
それからというもの、一人、また一人と観客が増えていきました。
「かぐやちゃん、これを見てごらん」
芝刈りのじいさんが見せたタブレットの画面は、かつてちくりんちゃんを誹謗中傷したSNSの画面でした。
『ちくりんちゃんは子供の頃から竹炭作りを手伝っていたんだぞ』
『本当にちくりんちゃんの歌と踊りを見た奴が、これを書いているのか?』
『ひょっとして、誰かがちくりんちゃんを陥れようとしているんじゃないか?』
「かぐやちゃんの言うとおり、わかってくれる人はわかってくださるんじゃな」
「うむ!」
ある公家のお屋敷の廊下を、一匹の白ウサギが慌てて駆けてゆきます。
「う、兎姫様! こ、これをご覧下さい!」
五衣を纏った兎姫にスマートフォンの画面を見せた白ウサギは、息も絶え絶えながら説明をします。
「わ、私どもがいくらSNSや匿名掲示板にちくりんちゃんの悪口を書いても、それ以上に擁護する書き込みであふれて、終いには私たちの”あかうんと”も特定されそうです! い、いかがいたしますか?」
しかし、兎姫は落ち着いていました。
「まぁ、ここまでは前座みたいなものね。本番は天下一演芸会。おまえたちも書き込みは控えて稽古に励みなさい。あんな奴に私が後れを取るとは思えないけど、万が一の時は、フフフ……」
妖しく微笑む兎姫は、頭の上の耳をピクピクと動かしました。
そして天下一演芸会の当日、芝刈りのじいさんら村人に見送られるかぐや達。
「残念ながら入場券が買えんかったが、”らいぶすとりーみんぐ”で応援するからの」
「ありがとうみんな! ではいってくる!」
都一番の演芸場はすでに押すな押すなの大盛況で、せめて歌だけでもと、周辺の家の屋根に登る輩まで現れるほどでした。
他の出演者と共に、大部屋の控え室で待つかぐや達。
「兎姫とやらはお公家様お抱えだから待合室も個室らしいな。さすが、お高くとまっておるだけはあるな」
「でもおじいさん、本番まで顔を合わせないだけまだよいではないですか。かぐや、悔いのないように精一杯歌いなさい」
「うん!」
『ただいまより、天下一演芸会を開催いたします!』
”あどばいざあ”である災刃坊主は、開会を宣言します。
予選が始まり、出演者達が審査員、そして観客を前にして次々に歌と踊りを披露します。
そして、かぐやの番がやってきました。
「ちくりんちゃんで~す! 『隣の客はよく竹を立てかける竹屋だ』! いっきま~す!」
七匹のガチョウと共に歌い踊るかぐやに向かって、観客席のファン達は光る竹、”ちくりうむ”を振り応援します。
「う、兎姫様! あんなものまで!」
「へぇ~。ちょっとは知恵を使っているわね。でも、しょせん無駄なあがきね」
兎姫も白ウサギ達と共に歌い踊ります。
「さぁ皆の衆! あたしの声に酔いなさい!」
腕と脚を露出し、胸や体の線が浮き出たボディースーツを纏った兎姫の歌と踊りに、観客達はまるで酔ったかのように頬を染め聞き惚れます。
「ば、ばあさんや! 兎姫とやらの歌と踊り! なんと妖艶な……」
「本当、女である私でさえ見とれてしまいます。”月のとーなめんと”で、かぐやと決勝までいっただけのことはありますわ」
舞台の袖でため息を漏らす翁と媼。ガチョウたちもうろたえますが
「慌てるでない。わらわはわらわの歌と踊りを披露するだけじゃ」
予選を勝ち抜くかぐやと兎姫。そして二人は決勝で相対します。
『決勝戦は、両者が左右の舞台で同時に歌と踊りを披露し、どちらが”会場内の観客”をより引きつけたか、その数で判断いたします。では、はじめ!』
災刃坊主の合図で、二人は一斉に歌い踊ります。
「さぁ、兎姫であるあたしの歌と踊りの虜になりなさ~い」
「『燃えよばんぶー』いっくぞ~!」
左右の舞台で両者が同時に歌い始めます。
観客達もどちらを見ようか迷うほどでした。
『♪~燃えよ! (燃えよ!) ばんぶー! (ばんぶー!) 破竹の勢いで~♪』
かぐやも喉が潰れるほど熱唱し、ガチョウたちも羽根が抜けるほど踊ります。
「がんばれかぐや!」
舞台の袖で翁は応援し、媼は両手を合わせ、ただひたすらに祈っていました。
『うおおぉぉぉ!』
両者の演舞が終わり、演芸場内は大歓声に包まれます。
『それでは観客の皆様、よかった方の舞台の前にお集まり下さい!』
災刃坊主のかけ声と同時に、兎姫の耳がピコピコと動きます。
すると、観客達はぞろぞろと、まるで夢遊病のように兎姫の舞台の前へと集まりました。その中にはちくりうむを持った、かぐやのファンまで見受けられます。
「ひ、姫様!」
「……やはりな。あやつめ。術を使いおったか!」
やがて、観客全員が兎姫の前へと集まりました。
芝刈りのじいさんの家でライブストリーミングを見ている村の者達は、会場内の様子に憤慨します!
「な、なんじゃこれは! どう見ても茶番ではないか!」
「今からでも演芸場に殴り込みをかけるぞ!」
そんな外野の声もむなしく、災刃坊主は淡々と宣言します。
『ご覧の通り、優勝者は……』
『ちょっと待ったぁ!』




