第四話 か○や姫 四節
こうして竹取の夫婦が始めたネット商店ですが、『外噺の方々』を相手にしている為、すぐさま注文が来るわけではありません。
それでも、翡翠の玉を売ったお金で家族三人、十分に暮らすことが出来ました。
そして、一月、二月がすぎると、かぐやはまるで月の満ち欠けの一回りで一つ歳を取るかのように、ハイハイから拙い足取りで何とか歩いています。
「は~い、かぐや。あんよはじょうず。おにさんこちら」
「ぬぬ……久しぶりに歩くと勝手がわからぬな」
「う~ん、これはどうしたものか……」
ノートパソコンの前でうなっている翁の背中へ倒れるように、かぐやが被さってきました。
「翁よ、どうしたのじゃ?」
「おお、じつはな、久しぶりに注文が入ったのじゃが、いつもの露天場所ではなく、人目につかないところで商いをしたいといってきてのう」
「おじいさん、でしたら家にお招きしましょうか? せっかくのお客様ですし」
媼の言葉を、すぐさまかぐやが一刀両断します。
「いや、それはマズイ。下手に家が知られたら、それこそ夜盗が襲撃に来てお宝のみならず一切合切奪ってゆくじゃろ。災刃坊主とやらも言っておったじゃろ、ネット商店では、”ぷらいばしい”は極力表に出さぬ方がよいとな。柴狩りの爺も婆も、商いの時は人目の多い、あの場所でしかおこなっておらぬからな」
「ならどうするのじゃ? たとえ村の寄り合い所で待ち合わせしても、通りがかった村人にお宝を知られるやもしれぬ。以来、ワシらがどんな目で見られるか……」
「竹林はどうじゃ? あそこなら人目につかぬし、お主らにとっては庭みたいなものじゃろ? 何かあればすぐさまトンズラすれば良い」
「ん~たしかにあそこには以前竹炭を作っておった小屋があるが、問題はお客がその場所を見つけられるか……」
「おじいさん、あたしもばそこんをいじっていましたが、最近は”じーぴーえす”の座標で場所がわかるそうですよ」
「そうか、なら竹炭小屋の座標を送ってみるか」
竹炭小屋の前で待つ三人。念のため、翁の両腰には鉈が、媼も竹槍を手にしています。
「遅いのう……やっぱりこの場所がわからんかったか?」
ノートパソコンを立ち上げてメールを調べますが、お客からのメールはありません。
「そういえば翁よ、お客が欲しい品はなんじゃ?」
「ん~? なんでも片手で持てるぐらいの”葛籠”に入るお宝が欲しいそうじゃ。一応、一通り持ってきたがのう」
「おじいさん、せっかくですから待っている間にお昼にしましょう。腹が減っては戦が出来ぬといいますし」
媼が笹の包みを広げると、真っ白なご飯で出来たおにぎりが現れました。
「いただきますのじゃ!」
かぐやは両手でおにぎりをつかむと”パクッ!”っとかぶりつきます。
その姿に翁と媼の顔も緩みますが、すぐさまその顔が固まりました。
「ん? どうしたお主ら?」
かぐやが振り返ると、そこには、
包帯の巻いた首からスマートフォンをぶら下げた、
身の丈六尺(約180センチ)はありそうな、
丸々と太った
『雀』
が、”ドドーーン!!”っと立っていました。
「「「!!」」」
声も出せないほど驚く三人!
震える手で翁が鉈を、媼は竹槍を手に取ろうとしますが
「待て! 慌てるでない!」
かぐやは二人を制します。
「ひょっとして……お主がお客か?」
かぐやの問いかけに雀は”コクコク”と首を前後に振ります。
「おお、そうか、よくぞおいでになった。とりあえず座られよ」
かぐやの横に”ドスン!”と座る雀ですが、その目は、かぐやが手に持つおにぎりから離れません。
「ひょっとして……欲しいのかや?」
”ブンブン!”と、雀は激しく首を上下に振りました。
かぐやは食べかけのおにぎりをゆっくりと差し出すと、
”ドドドドド!”
と、まるでキツツキのようにかぶりつき、あっという間に平らげました。
さらに雀の目は、笹の葉にのったおにぎりに釘付けになります。
「そうか、ここまで飛んできたのじゃ、腹は減るわな。存分に食え!」
”ドドドドドドド!”
”ドドドドドドド!”
”ドドドドドドド!”
”ドドドドドドド!”
かぐやが差し出すそばから、雀は次々とおにぎりを平らげました。
あっけにとられる翁と媼。
”プホッ!”っとゲップを吐き出し腹をなでる雀。そして、羽根の間から小さい葛籠を取り出しました。
「なるほど、この葛籠に入る分のお宝か。翁、どうじゃ?」
「これぐらいの大きさなら、持ってきた分で十分入るじゃろ」
翁は葛籠のふたを開け、持ってきたお宝を詰め込みます。
「お客様。こちらでよろしいですか?」
翁の差し出す葛籠に雀は”コクコク”と首を前後に振り、お腹から、かぐやほどある風呂敷包みを取り出すと”ドスン!”と置き、結び目をほどきます。
「こ、これ全部金かや? 確かにこんなのを腹に抱えて飛んでりゃ、腹が減って当然じゃ。しかし、雀のお主がどうやってこの金を?」
山のような銭に驚くかぐやの耳元で、雀が囁きます。
「なるほど、仲間と協力して、道に落ちている銭や財布を集めたと。……確かに”こんな重いもの”を”渡す”訳にはいかぬからな」
「ではお客様、商い成立ということで、ありがとうございました」
葛籠を足でつかみ飛んでいく雀を、翁と媼はお辞儀をして見送り、
「”舌”を大事にせいよ~」
かぐやは雀が見えなくなるまで、手を振り続けました。
さすがに担いでは持って行けぬと、竹炭小屋からホコリのかぶった大八車を引っ張り出し、銭が入った風呂敷包みを載せました。
カモフラージュとして、適当に切った竹を上から被せ、ひもで縛ります。
家路につく三人、かぐやは媼の背中で眠ってしまいました。
「なぁばあさんや、かぐやは不思議な子じゃなぁ」
「ええ、でも、私たちの娘には、変わりありませんよ」