第四話 か○や姫 一節
昔々、あるところに、竹取の翁がおりました。
今日も翁は竹林へと入ると、高く伸びたある竹の前に立ちます。
両手に鉈を構え、自作の早口言葉という雄叫びをあげました。
「秘技! 『炊けてる酣、背丈の高ー竹は竿竹だけど竹光にも長けてる!』 ハイヤァー!」
とても翁とは思えないほど軽やかにジャンプすると、竹の先端辺りから順番に
”スパッ!””スパッ!””スパッ!””スパッ!”
と、まるでネギを切るかのように、ササクレも残さずきれいに切断していきました。
「う~む、『竹の節ガッチャ』もそろそろ潮時かのぅ。SRどころかRすら出なくなったわ。Nをいくら合成したところで都では買いたたかれるのがおちだし、はてさてどうするかのぅ……」
このように翁は、めぼしい竹を切っては、中に入っているアイテムを集めて、時には家で使い、余ったのは合成したり、都へと売りに出していました。
疲れた翁は地面に座って考えます。
「やはり地道にタケノコ掘りでも……そういえば柴刈りの爺さんはなにやら”ぱそこん”を使って結構羽振りが良さそうじゃのぅ。ワシも”あいてぃー”をつかって”ぎょうむかくちょう”を考える時期にきておるのかもしれぬ……」
いろいろと想いを巡らせている内に、いつの間にやら辺りが暗くなってしまいました。
「こりゃいかん。”ぐりずりぃ”ごときでは遅れは取らぬが、柴刈りの爺めが闇討ちにくるやもしれぬ! 都でいい鎖がまを買ったと自慢しておったからのぅ」
慌てず急いで落ち着いて、竹取の翁は辺りに注意を払いながら山を下りていきますが、竹林の奥から輝く淡い光が眼に入ります。
「ぬっ! 危惧した通りじゃ! あやつめ、堂々と明かりをつけての果たし合い! よかろう! 受けて立つぞ!」
翁は両の腰から鉈を握りしめ、明かりに向かって構えます。
(……どうした? なぜ動かぬ! ハッ! もしや後ろに!)
慌てて翁は後ろを向き鉈を構えますが、なんの気配も感じません。
明かりに向き直った翁は”ジリッ!””ジリッ!”っと間合いを詰めますが、やがてなにやら違和感を感じました。
やがて早足で近づいた翁が見たモノは、顔の辺りの節間が光っている、他の竹よりも一回りも二回りも、いいえ、翁の両腕で抱きしめられるほど太い竹でした。
「こ、これは! なんという立派な竹じゃ! しかも節間が黄金色に光っておる! こんなモノはSSR,いや、UR(都○再生○構……じゃなくウルトラレア)……まさか、『噺伝説』に聞くOO(オンリーワン)アイテムなのか!」
翁はすぐさま辺りを見回し、
「ハチョ~!」
と叫びながら黄金色に光っている上下の節を切断すると、光が漏れぬよう風呂敷に包み、脇目もふらずに我が家へと駆けていきました。
顔にまとわりつく羽虫さえも翁は華麗なステップで避けながら、ゴールラインである玄関に向かって、ラガーマンのように風呂敷包みを前に突き出しながらジャンプします!
”ズサササァー!”
”ピーーー!”
「よっしゃああぁぁ!」
ガッツポーズする翁に向かって媼がにこやかな顔で出迎えます。
「おやおやおじいさん、おかえりなさい」
媼にかまわず翁はすぐさま玄関の戸を閉め、さらに家中のふすまや障子も閉めました。
「あらやだもうですか? これは今夜”も”期待できそうですねぇ」
「”そ、そんなことをしている”暇はないぞばあさんや。これを見ておくれ」
おじいさんはゆっくりと風呂敷包みを広げました。
「なんと! 黄金色の竹! おじいさんこれをどこから? もしや私の知らぬうちに龍宮城へ行かれたんですか? そういえば今朝に比べて二百歳ほど老けているような……」
「ワシは生まれる前からおじいさんと呼ばれておったんかい! ……実はな、いつもの竹林で竹を取っていたら、この光る竹が眼に入ったんじゃ」
「そうだったんですか、こんなウルトラレアな竹なら、都へ行けば高い値段で売れそうですね。だから前祝いで戸や障子を閉めたと……」
(ワシが二百歳老けたといいながら、すぐさま夜の生活を考えるとは、最近、ばあさんが鵺に思えてくるんじゃが、まぁそれは置いといて)
「ばあさんや、高く売れるのは竹よりむしろ竹の中身じゃ! どんなお宝が入っておるか楽しみじゃが、問題は、いかにお宝を傷つけず竹を割るかじゃ。ワシの
『孟宗流 真空撃割破』
でも一撃で割れるか自信がない」
「おじいさん、鑿で叩きながら少しずつ割ってはどうですか?」
「下手に震動を与えては中のお宝が傷つくやもしれぬ。ああ、もどかしいのう、せっかくのお宝を前にしながら」
「……わかりました。それなら私の
『布袋流 脳天唐竹割り』
を使いましょう。これは隋の時代より伝わった『破竹術』の一派で……」
以下、媼のうんちくが続きますが、略します。
「そうであったか、ファア~。(そういえば柴刈りのばあさんもこの唐竹割りを使っておったような?)」
おばあさんは右手をまっすぐ伸ばすと、頭上へと掲げます。
「ではいきますよ……”破ッ!”」
目にもとまらぬ速さの手刀が光る竹に向かって振り下ろされると、触れるか触れないかの距離で”ピタッ!”っと止まりました。
”ピシッ! ……バカッ!”
一筋のひびが竹の上下に走ると、きれいに二つに割れました。
「なんと!」
「これは!」
割れた竹より現れたのは、玉のような肌をした女の赤子でした。
「そんな、まさか! 竹の中から赤子が!」
「まぁまぁ、おじいさん、この子はまるでおひな様のよう」
翁と媼は驚きとうれしさが混じった顔で赤子を見つめました。
やがて、赤子の眼が開かれると、小さい口であくびをします。
「これこればあさんや、どうやら起こしてしまったようだぞ」
「あらあら、かわいいお口だこと。きっとホトトギスのような鳴き声を奏でるのでしょうね」
もはや二人の顔は溶けた飴のように緩んでいました。
そして、赤子の口から奏でられる鳴き声……。
『オーホッホッホ! どうやら異世界、いや、『異星転生』は成功したみたいね! 見てなさいあの女ぁ! そして我を陥れた能なし側近共ぉ! この星で力を蓄えた暁には、まとめて”ぶらっくほうる”へと蹴飛ばしてやるわぁ!』
「「……」」
思いも寄らぬ”鳴き声”に、二人の顔は溶けたまま固まってしまいました。




