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天才×秀才  作者: 辻 一成
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むかしばなし①

 13歳の僕はただただ普通だった。厳密にいえば、中学校に入学してすぐのころ、進学とともに親の転勤によって12年慣れ親しんだ地元を離れることとなった子供(ガキ)としては、だが。誰も知り合いがいない状況におかれたかわいそうな僕は、右も左もわからないのに右往左往していた。周囲の子供はみな地元つながりでお互い面識があるようで、入学式の日からグループのようなものができてしまっていた。僕が通うこととなったこの学校の説明はあえて省かせてもらおう。そんなことは僕にとっても、そして誰にとっても取るに足らないことだから。ただ一つだけ言っておきたいことは、少なくとも「彼女」がいていいような非凡な何かをもつ学校ではなく、9割がた普通の木造の学校だったというだけだ。

 話を戻そう。兎に角、入学して一週間くらいの間僕はひとりぼっちであることに頭を悩ませていた。当然誰かにいじめられていたとか、そういう大きな問題は全くなかった。それが却って親に相談するという最善の策をとることを拒ませてしまっていたのだ。ここでもし、僕がちっぽけなプライドを棄てて13歳の少年より遥かに聡明な両親に頼ることができていたのなら、少なくとも最悪手をとることはなかったような気もするのだが、過ぎたことをいくら悔いても仕方がない。

 とはいえ、僕も根っからの愚か者でなく、ひとりは嫌だという気持ちから何とか人と交流しようと策を練っていた。そこで標的となったのは当然同じく一人ぼっちの奴なのだが、この選択が僕の人生を狂わせた。中途半端な負け犬人生をここで確定させてしまったのだ。

 標的となった同類は入学式とその次の日をいきなり休んでいた強者つわものだった。風邪を引いたからだという説明を教師からされたのをなんとなく覚えてはいるのだが、後々考えるとあれは嘘だったのではないかと疑ってしまう。彼女、高峰涼香(たかみねすずか)は同い年とは到底思えないほど静か…というより冷めていた。二日間休んでいたことで当初は周囲の注目を浴びてはいたが、なぜかみなすぐに彼女から離れていった。

 入学式から一週間たったその日、僕は意を決して彼女に声をかけた。僕がなんと言葉をかけたかは覚えていない。古典的な話で、頭部に強い衝撃を受けると記憶を失うというものがあるが、それに近いものだったのかもしれない。少なくとも僕は彼女に友好的な言葉をかけたはずだった。それに対して彼女はその冷え切った眼をこちらにむけることすらなく

「二度と話しかけないで。次に話しかけてきたら左目を、その次は右目を…それでも話しかけてきたら睾丸を握りつぶすよ?」

とその表情とセリフに全くそぐ合わない慈愛に満ちた口調で、しかしセリフ通りの冷たい声で言い捨てた。その声色とセリフはあまりに現実味がなくて、一瞬僕に向けられた言葉だと気づけなかった。呆然と立ちすくんでいる僕に彼女はようやく明確な悪意を伴った視線を向け、その口を開きかけた。その口の動いている間、僕はようやく悟った。こいつはやばいと。みなこいつにかかわらないのは気に入らないとかじゃなくて、こいつだからなのだと。彼女が次の言葉を紡ぐ前に、本能がけたたましい警鐘をなりひびかせ、それに身を任せ、僕は一目散に退散した。全身鳥肌がたち、まともに足は動きそうになかったけれどそれでも突き動かされるように僕の身体は彼女から離れていった。

 これが僕と、天才高峰涼香の考えうる中で最悪の、けれど変えようのないファーストコンタクト。時間にしてわずか十数秒であった。

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