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星の海を穿て  作者: 雪ノ瀬いちか
2/4

02 変わらない結末を恨んだ


「おはよう、澪」

「おはよう世瑠ヨルくん」



彼女は窓際の最前列で本を読んでいた。

その姿は天使の様だった。

言い過ぎなどではなく。

生まれつきの白い髪は床につくほど長く、辛うじてポニーテールにしている事でそれを逃れていた。

更に振り向いて俺を写すその瞳は深い海を思わせる青。

同じ人間とは思えない儚さを彼女は持っていた。

名前は早乙女サオトメレイ

俺の幼馴染だ。



「今日は何読んでんの?」

「…星憑ホシツキ先生の本」

「澪は好きだね、その人の本」



その周りとは違う容姿から昔はいじめを受けていて、俺はいつも彼女をそんな人間から守ってきた。

…ならカッコよかったのだが。

残念ながら俺は一緒に女子トイレで水を被ったり、部屋に閉じ込められたり。

要するに俺もいじめられっ子というやつだった。

しばらくして教室の扉がバン、と大きな音を立てて開かれる。

次に掛けられる言葉はもう毎日同じもので朝の安息の終わりに深く大きくため息をついた。



「なあ世瑠ーノート貸して」

「はー……いい加減自分でやってこいよ」

「俺お前と違って暇じゃないからさー。な、一生のお願いだって!これで最後!」



こいつは俺とは正反対で、澪を救う()()()だった。

細く中性的な見た目をしているが女子の理想らしい175㎝の長身でスポーツ万能。

俺のもう一人の幼馴染。

白藍の色の髪に本人はこだわりがあるらしいおかっぱ。

深い海の様な瞳が少し長めの前髪から覗く。

俺は邪魔な髪だといつも思うが、それがいいと女子はキャーキャー騒いでいた。

要するに、イケメンというやつだ。


名前を早乙女サオトメ零斗レイト、澪の双子の兄だ。

顔はいいが妹の事になると手が付けられない、そんな男だった。

シスコンといえば可愛いものだが実際はそんな優しいものではない。

妹を虐めていた人間には男女問わず手を上げるし容赦がない。

いつしかそんな兄の存在により澪と俺がいじめられる事は無くなっていった。



「また後でね零斗、世瑠くん」

「ん…さっさと行くぞ零斗。ノートいるんだろ」

「はーもう時間か。また昼な、澪」



授業開始五分前の予鈴がなって男二人で自分の教室に戻る。

二クラスしかないため双子の二人は自然とクラスを分けられ、残念な事に俺は零斗と同じクラスになってしまった。

しかも席替えの度に俺の前の席に零斗は座っていた。

くじ引きのはずなのだが、毎回。

窓際の一番後ろの俺は苦手な数学の授業を欠伸をしながら流し聞く。

黒板通りそのままをノートに写しながら睡魔と戦っていると前の零斗の頭ががくんと下がり、そこから起き上がることは無かった。

勝った、と思いながらにやりと笑ったあと気が付くと授業は終わっていた。



「なあ世瑠」

「なんだ」



六限目が終わり少し騒がしくなる教室。

机の中でスマートフォンをいじりながら時間を潰していると唐突に前の席から声がした。

俺が起きたあとの授業でもずっと寝ていた声の主はいつの間にか起きた様で。

零斗が椅子を後ろへ斜めに傾け、自分の机がカツン、カツンという音を繰り返した。

いつもの「黒板を写したノートを見せろ」と言う言葉を待ちながら各教科のノートを纏めて準備する。



「お前、澪が好きなんだろ」

「…………は?」



ノートが床にバラバラと落ちて教室中の視線を集める。

すると規則的に鳴っていた音がピタリと止まり、顔をこちらに向けて俺を逆さに見ながら笑った。



「そっか」



それだけ言うとまた同じ音が鳴り続いた。

五月蝿いカツン、カツンと音をたてる机を立って落ちたノートを拾いながら赤面していたであろう自分の顔を零斗に見られたことにとてつもない屈辱を覚えた。

落ち着けと自分に言い聞かせて前の男の椅子を蹴った。



「…いきなりなんだよ。寝ぼけてんのか、気持ち悪いな。そのまま転けろ、死ね」

「やーだよ」



へらりと薄く笑みを浮かべながら窓の外を見つめる零斗の瞳に違和感を覚えた。

窓に映ったその海の色が何故かいつも以上に青く見えた。

何もかも見透かすような瞳をしていて何故か寒気がした。



「…まあ、そりゃ、好きだよ、澪のこと」



長い間があって、何を思ったのか。

そう口にして後悔した。

また零斗が面白いものを見るように笑うんだろうと思った。



「………」



でもその顔に笑みはなく。

細められた目はここではない何処かを見ていた。



「……だろうなぁ。まあ、」



零斗がその先を口にする前にチャイムが鳴って教室が静かになる。

続きを待ったが何事もなかったかの様にまた机に突っ伏して眠っていた。



「……結局なんでそんな事聞いたんだよ」






「………なぁ」



小さく呟いたその言葉への返答は無かった。



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