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お嬢様、それは無茶振りすぎます。

作者: たい焼きの餡

「ここにて契約する。

ひとつ、主人の命ある限り

ひとつ、その身が動かなくなるまで

ひとつ、絶対の忠誠を………」



***


「今日から私があなたの主人よ。」



その少女はにんまりと笑う。


燃えるような紅い髪、幼くも意志を感じる大きく力強い瞳、雪にも負けぬ透明な白い肌。


吸い込まれるようにワタシは少女を見つめる。





今まで何の感情の揺らぎもなかったのに刹那の間に自覚する、これが運命なのだ、と。


自然にワタシは跪き、頭を垂れた。



お嬢様、永遠の忠誠を誓います。


<hr>



あれから3ヶ月がすぎた。



お嬢様は無茶振りが過ぎる。


にらめっこをしようというのだが、いかせんワタシことゴーレムは顔ですら鉄でできていて表情を動かせないのだ。何回やってもお嬢様が勝つことはない。終いには可愛いお顔を真っ赤に膨らませて、これは命令よ!笑いなさい!との一言。

だからワタシは笑えないんですって。


それから約半年、お嬢様の顔に影が見えた。

母様が不治の病にかかってしまったようだ。父様はもうお嬢様が物心ついた時からお亡くなりになっていたらしい。お嬢様は酷く落ち込まれていたが、お母様にこんな姿を見せたら貴族の娘として恥だわ!と自力で立ち直られたようだ。だが、ワタシは、少々不安である。お嬢様は無理しているんじゃないかと。

ワタシの前ぐらい気持ちの向くままいてほしいと言ってみたがお母様を安心させるためにいつも笑顔でいなあととお嬢様はおっしゃられた。

ゴーレムのワタシには人間の感情が上手く理解できない、が、この時のお嬢様の笑顔はなんだかぎこちない気がした。


あのときの様にお嬢様には心から笑って欲しいものだ。



<hr>


昨日母様がお亡くなりになられた。

父様と母様がいない今、付き添ってあげられる人間は誰一人としていない。

親戚の方も戦争で家ごと火に炙られてこの世にいられない。


お嬢様の目は酷く曇って光が見えない。ここ数日ずっとこの調子であられる。


人間というのは優しい生き物だ。優しすぎる。他人の死にここまで感情的になれるのは人間くらいであると思う。ほかのゴーレムが大岩の下敷きになって潰れていてもなんとも思わない。


真に人間の感情がわからないワタシにはお嬢様をどう慰めていいかわからない。

何かして欲しいことはをありですか?と聞いた。


「じゃあ一緒に添い寝してくれる?」


少々不安だったが了承した。ゴレームナイトは種族上力が強く繊細な調節ができないのだ。

もし少しでも腕を動かせばお嬢様を潰してしまうかもしれない。

お嬢様は無茶振りがすぎる。

体を微たりとも動かしてはいけないという緊張感の中お嬢様に抱きつかれながら一夜を過ごした。

ついさっきまで目を真っ赤に腫らして目の下に隈を作っておられたのに今はすやすやと気持ち良さそうに寝ておられる。


お嬢様の穏やかな寝顔を見ているとなんだか体がポカポカしてくるような……これが嬉しいという感情なのかもしれない。

少しでもお嬢様のお役に立てるのはワタシの本望である。



<hr>


お嬢様は15歳になった。

騎士学校に入って3年目でこれまでずっと主席であられる。教師をも打ち負かすほどだ。

お嬢様は努力家だ。ワタシに剣を教えてほしいと言われた時は驚いた。

母様と父様が残してくれた家の者の名に恥じぬよう頑張られるそうだ。


そして今ついに卒業試験が終了した。

全ての教科において満点なのはお嬢様が初だそうだ。


おっとお嬢様と目があった。


お嬢様はワタシのところに飛んできて褒めて褒めてと期待の眼差しを向ける。


流石お嬢様です。と言ってもまだ物足りない御様子。

実はお嬢様に言われたのだ。もし卒業試験に合格したら言葉で褒めるだけでなくて何か私が喜ぶことをしなさい!と。


お嬢様は無茶振りが過ぎる。

祝いの贈り物をしようとしても、ほしいものは既に自分で買っているというし、どこかに遊びに行きますか?と言ってもとりわけ別に行きたいところはないと言う。



ワタシはお嬢様の頭をわしゃわしゃと撫でてギュッと抱きしめた。お嬢様の甘い香りがふわっと広がる。

以前話したと思うがワタシは途轍も無く不器用である。お嬢様にただ触れることさえ躊躇われるのに、このわしゃわしゃ感とギュっと感を出すのにどれだけ練習したか……。


でも、これが正解だったようで、お嬢様は満足そうである。ホッとした。お嬢様の笑顔を見られるのであればワタシはどんなこともしますぞ。



<hr>


お嬢様は二十歳になられた。もうすっかり大人の女性であられる。国直属の軍長に就任し、立派に働かれている。今日は他国との国家間戦争前夜である。

明日のこと不安ではないのですか?とワタシは問いかけた。

戦争なのだからいつ何が起きてもおかしくは無いのです。


「不安なわけないじゃない。何があってもあなたが守ってくれるのでしょう?」


お嬢様は無茶振りが過ぎる。

お嬢様にはよく先走る癖がある。明日の戦争でも先頭をきって敵に攻め込まれることだろう。そんなお嬢様を守るのはなかなかに難しい。


でもこの身が滅びようともお嬢様をお守りすることは当たり前の事である。


お嬢様は大変逞しくなられた。だからワタシの存在は必要ないんじゃないかと心の何処かで思っていた。


明日は精一杯お嬢様の役に立ちますぞ。


どうやらワタシの方が不安であったようだ。


<hr>


戦争は無事この国の勝利であった。

もちろんお嬢様とワタシも無事だ。


お嬢様は沢山活躍なされた。王が褒美に自分の息子をやると言う。

王族と婚姻を結ぶと貴族としての位が1つ上がるのだ。

王子は穏やかで優しそうな好青年だ。これほどの好条件はないと思う。


「そんなのいりませんわ。それより辺境の地に土地をくださらない?そこに2人で暮らせる家が欲しいの。」


お嬢様はワタシの方を見てニッと笑う。


なんて嬉しかろうか。地位や名誉よりお嬢様はワタシを選んでくださったのだ。



お嬢様とワタシは自然豊かな辺境の地に引っ越した。



<hr>



「もうお嬢様と呼ばれる年でも無くなったわね。」


お嬢様は力なく微笑む。ここ数日は食べ物も喉に通らずすっかり痩せ細ってしまっている。ワタシを握る手は皺々として力が入らず震えている。

それでもお嬢様はお嬢様だ。


「今まで本当にありがとう。あなたがいてくれて本当によかった。これからはいい主人を見つけて幸せに暮らしなさい。」





お嬢様は一粒涙を零し永遠の眠りにつかれた。


昔は人間の死への悲しさについてあまりわからなかったが今では痛いほどわかる。

大切な人を失うことがどういうことか。



お嬢様と過ごした日々は暖かくって輝いていてあっという間だった。


これから幸せに過ごせなんて出来るわけがない。お嬢様の存在こそがワタシの幸せである。




お嬢様は本当に無茶振りが過ぎる。


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