幼稚園児の墓参り
今日はね、特別な日。お母さんとお父さんが、あたしと兄貴を残してさっさとあの世に行っちゃった日。
「きりちゃん、準備はできた?」
「乙女の着替えを覗くなんてとんだ不届き者ね。義務教育はちゃんと受けたのかしら?」
「ごめんきりちゃん!お願いだから嫌わないで!お兄ちゃん廃人にいとも簡単になる自信があるから!」
「だったら一刻も早くこの部屋から立ち去ることね、あと3秒しかないわよ」
「3秒?!時間制限ありだったのか!!」
変態シスコン兄貴のおかげで疲れるけど退屈はしない。きっと兄貴は兄貴で頑張ってるし、あたしの知らないところで苦労してるんだと思う。兄貴がいなかったらあたしきっと施設行きだったわ。なんせお母さんたち駆け落ちだったらしいから。
感謝してるの、本当は。世の中両親いても不幸な子どももいるし。だから不幸だなんて思わないわ。でもね、あたしは本当にここにいていいのかって思っちゃうわけ。
「きりちゃーん、そろそろ行くよー」
「わかった〜すぐ行くー」
だって正直言って兄貴はかっこいいの、黙っていればの話だけど。だってこのあたしの兄貴よ?性格はともかく容姿は整ってるわけ。背も高いし、若いのに主任だって聞いた。こりゃモテるでしょ?モテなきゃおかしいでしょ?
それなのにまだ幼稚園に通うあたしがいる。こんなんじゃお付き合いとか断ってるだろうし、デートとかもしてないんだわ。今が盛りのに、もったいない。それもこれもあたしがいるせいなの。わかってるの、わかってるんだけどあたしじゃ何もできないのよ。
「きりちゃん?どっか具合悪い?病院行く?いっそのこと検査入院してみる?」
「冗談は1日1回にして、終いにゃあたしもどうなるかわからないわよ」
「ご、ごめん!お願いだから嫌わないでください!」
「わかったならいいわ」
「・・・でも本当に具合が悪くなったらちゃんと言うんだよ?きりちゃんに何かあったらお兄ちゃん発狂しちゃうから」
「言霊信じてるの、二度と言わないで」
「ご、ご、ごめん!!」
こんな変態だけど、ちゃんと優しいの。あたしに何かあったら迷惑なほど心配してくれて、助けてくれる。
「でも・・・ありがとう」
「き、きりちゃん・・・お兄ちゃん感涙で前が見えない・・・!」
「やめてよ!お兄ちゃんと心中なんてまっぴらよ!」
早く大人になって、お兄ちゃんを解放してあげないといけないの。もうあたしなんかにかまわないで、自由に生きてほしい。好きなことしてほしいの。
「なんとか無事に着いたねー」
「本当に、何回中央線越えたことか!対向車の人もすごい顔してたわよ!」
「ごめんって!本当にごめんなさい!!」
「わかればいいわよ」
お母さん、お父さん、あたしを早く大人にして。
「母さん、父さん、きりちゃんはいい子で元気にちゃんと大きくなってます。最近は本当にかわいくてかわいくてたまりません。嫁に行くことなんか考えただけで相手の男を殴り倒してしまいそうです」
「相手はまだいないのよ、早とちりもいいところよ」
「まだ!まだって将来はいるってのか?!」
「当たり前じゃない、あたしが一生をお兄ちゃんと添い遂げるわけないじゃない」
「えー・・・」
「えーじゃないわよ」
そして兄貴にお嫁さんをあげてください。このままじゃ独身で終わります。孤独死は辛いです。
「んじゃなるべくきりちゃんが大人にならないようにお願いしよう」
「やめてよ!言霊!」
「だって・・・」
「だってじゃないわよ!何考えてんのよ!言霊なめてたら痛い目にあうわよ!」
「そんな必死に・・・そんなにお兄ちゃんのこと嫌い?!お兄ちゃんショック!!」
「必死にもなるわよ!」
もうやめてよ、幸せになってよ。あたしの犠牲になんかならないでよ!
「きりちゃん・・・?」
「お兄ちゃんは!幸せに!し、幸せにならなくちゃいけないの!あたしに付きっ切りじゃだめなのよ!お、お嫁さんもらって、ご飯つ、作ってもらって、豪邸建てて、のんび、びりするの!」
あたしお兄ちゃんの幸せ踏み台にして生きてるの。あたし嫌なのよ、嫌なの。大好きな人がこんな目にあうの。
「きりちゃん・・・おいで」
行っちゃだめよ、あたしお兄ちゃん離れするんだから!
「遠慮しなくていいよ。ごめんね、きり」
笑ってんじゃないわよ!腕のばすんじゃないわよ!
「ずっと辛かったんだね。気づいてあげられなくてごめんね」
あーあ、だめだわあたし。ついついお兄ちゃんの腕ん中じゃない。久しぶりすぎて涙とまんない。
「お兄ちゃんはね、ずっと幸せだったよ。それはこれからもだ。きりちゃんがいる限りお兄ちゃんは幸せいっぱいだよ」
「そ、それじゃ、お兄ちゃん、いっ、一生独身・・・!」
「あははー独身貴族もなかなかだよ〜」
馬鹿言ってんじゃないわよ!病気とかしたらどーすんのよ!本当馬鹿で変態でシスコンなんだから!
「お兄ちゃんね、きりちゃんがいて本当によかった。お兄ちゃん一人だったらきっとこんなに笑って暮らせなかった。きりちゃんのおかげだよ、本当にありがとう。だから泣かないで?お兄ちゃんきりちゃんの笑顔が一番好きなんだ」
「へ、変態・・・」
「あはは〜変態って言われちゃったー」
本当救いようがない変態兄貴ね、当分お嫁には行けないわ。
「しょ、しょうがないから当分一緒にいてあげるわよ!」
「本当?!んじゃずっとね〜」
「当分っつったでしょ!だれがずっとだって言ったのよ!」
「えー・・・」
「えーじゃない!」
お兄ちゃんの笑顔大好きだよ。きっとこれからもいろいろあるけど、ずっと大好きだよ。今までありがとう、これからもよろしくね。あたしがお母さんたちの分もいっぱい笑わせてあげるから。
「きりちゃん大好きだよー」
「はいはい、あたしもよ」
「本当?!うわ・・・お兄ちゃん感涙で前が見えない!!」
「そのネタはもうだめね、死んでる」
「そ、そんなぁ」
あたしも相当ブラコンのようね。