幼稚園児の戦い
今私は最大の危機を迎えている。そう、私はフランスぼうやに食事に誘われて玄関を出ること3歩目。あたしは動けなくなっている。
原因はわかっている。目の前の敵、真っ黒で細長い体、ギラギラした目、今にも肉を食いちぎらんとせん牙、ぴんと立ち周囲の物音ひとつ逃すことのない耳、何よりもそのおしりで怪しく動く尻尾!
「にゃー」
猫!!
「な、何しようっていうのよ。一歩でも動いてごらん、二度と太陽なんて拝ませないわよ!」
事件は1年前、ある夏の日。あたしは兄貴とのプール帰り。ちょっとはしゃぎすぎて歩くのも必死だったわ。油断していたと言えばそうなんだけど。でも!卑怯じゃない!お互いフェアじゃなくちゃ!戦いとは神聖なるもの!それをいとも簡単にやつは!
「今度は・・・今度こそは前みたいに簡単に横切らせたりしないわよ!」
このあたしを横切った!横切りやがったのよ!許せない、許せないんだから!
それからというもの、あたしには不幸が降りかかりっぱなし。兄貴は変態に磨きをかけ、身長はそこそこで体重は増え続ける!最近なんて目じりのあたりがやばいのよ!
「ふっ・・・どっからでもかかってきなさいよ!この1年間、血の滲むような特訓の成果!あんたに見せてあげるわよ!ほら、どうしたのよ!今さら怖気づいたなんて言わせないんだから!」
もちろん特訓は反復横飛び。毎日20分はやってたのよ。おかげで誰よりも横移動が速くなったわ。そこだけは感謝してあげる!
「ほら、かかってきなさいよおおお!!」
積年の恨み、今ここで晴らしてやるわ!
「あ、きりちゃーんどうしたの?あ〜猫か、はいはい今どけたげるー」
・・・え?
「どっか行くの?早く帰ってこないとお兄ちゃん捜索届出しちゃうから!」
ちょ、ちょっと?
「んじゃ猫ちゃんはお家にお帰り、きりちゃんも1分1秒でも早く帰ってきてね。気をつけていってらっしゃーい」
むなしく響くドアの閉まる音。静かに立ち去る我が宿敵。戦いは終わったのだ。今まさに、あたしとあいつの仁義なき戦いは第三者の介入によって、しかも変態シスコンによって終結したのだ。
「・・・人生って・・・何・・・?」
あたしは今日、本当の敵は兄貴なんだと確認した。