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幼稚園児のお遊戯会

お遊戯会、それは子どもメインというか大人の戦場のひとつ。運動会が第二次世界大戦とすれば、さしずめお遊戯会は応仁の乱と言ったところかしら。時代軸が違うのはおいといて、大人たちの戦いは場所取りから始まる。

真ん中の一番前がS席とすれば、後ろから2、3人前の左はC席。前は決して見えない。立ち上がれば苦情。上手ははるか彼方。あたしの兄貴はもちろん、S席。幼稚園の迷惑も考えないで、開場1時間も前から騒いでいた始末。


「きりぃぃぃ!頑張れー!お兄ちゃん見てるぞー!写真も撮ってるぞー!ビデオももちろんだー!きりー!!」


数多の敵を退け手にした場所。どうやら兄は全開のようね。恥ずかしい、みっともない。身内であることを知られたくないわ。でも無理ね、しっかり名を呼んでいる。


まだ始まってもいないないのに。ナレーションの先生も言い出そうにも言えない。出番待ちのあたしの方をちらちら見ている。


「大丈夫です、先生。馬鹿は1回死んでも直りませんから。何回でもチャレンジしてください」

「きりちゃん、先生に何させる気?!」

「冗談ですよ、しゃべっちゃえばこっちのもんです。多分」

「多分?!そんな曖昧な!」

「ほら先生、暴動が起こる前に!」


急かされた先生はいきなり


「な、なんと!白雪姫が食べたのは毒りんごだったのです!」

「先生!まだ誰も登場してません!」


建築ぼうや、ナイスよ。つっこみ度プラス3と言ったところかしら。


「そ、そうね、まずは登場させないとね!みんな!さあ、早く出て!」

「先生!それじゃフィナーレです!」


フランスぼうやもやるわね、プラス4と言ったところね。


「ああ!じゃあまず木役と花役の子たち出て!」

「先生!普通木や花は大地にしっかりと根付いているものです!」


建築ぼうや、かしこさプラス2よ。でもこんな状況だからちょっとは不可思議があってもいいのよ。


「魔女!魔女出てみて!魔法でこの状況をなんとかして!」

「先生!他力本願はよくないです!」


フランスぼうや、正義感プラス1ね。でもね、見てごらんなさい。先生のあの汗、尋常じゃないわよ。もうちょっと思いやりを持ってもいいと思うわよ。


もうだめね、ここはあたしがやるしかないわね。


「出ます」

「きりちゃん?!」


もちろんあたしは主役の白雪姫。木とか花とか小人なんてやってられないわよ。


「うおおおおお!きりちゃーーーん!!」


フラッシュの嵐。連写してるの?ビデオあるならそれでいいじゃない。本当にどうしようもない変態ね。でも今はその変態にかまってる暇はないのよ。この混乱をなんとかしなくちゃ。


「おお、神よ!どうして私は白雪姫なの!」


名女優と言われたあたしの演技をとくと味わうがいいわ!


「美しすぎるからと言って、猟師に私の肝臓を持ってこさせるなんて!でも優しい猟師は代わりにいのししのを持っていってくれたわ、ありがとう!それから7人の男どもたちとの生活!耐えられなかったわ!なぜ私があんな薄汚いやつらの世話なんかしないといけないのよ!それから2度も3度も殺されそうになって!毒入りりんご食べて眠ってるときにどっかの王子は私を自分家に持って帰ろうとするし!王子の手下はやつあたりで私を殴るし!まあおかげで助かったけどね!お母様は焼けた鉄の靴を履いて、踊り狂って死んだからいいものの!」


さあ、ラストよ!


「こんな人生あんまりじゃない!!」


・・・あれ?こぶしを握り締めて、片足ついて派手に終わらせたのに。拍手どころか物音ひとつしないわ。


「ブ」


兄貴?こんなときにおなら?本当恥ずかしい変態ね。


「ブラボォォォ!!」


兄貴だけじゃなく会場にいる人みんながスタンディングオベーション。


「きりちゃん!最高だよ!感動した!白雪姫の真の魂の声が聞こえたよ!いや、響いてきたよ!!」


兄貴は号泣、先生は台本を投げ出し建築ぼうやとフランスぼうやと抱擁、他の園児は胴上げのやりあい、保護者はあたしにサインを求めてくる。当然の結果ね。


今年のお遊戯会もうまくいったわ。



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