幼稚園児の運動会
ついにやってきた、今日という日が。
「えー季節外れなんて苦情は受け付けませんー。えー保護者の皆様、平日にもかかわらずお集まりいただいてまことにありがとうございますー」
季節外れ、しかも平日だなんて兄貴にはまったく関係ない。やつはいつどんな日になっても来るから。そして・・・
「きりぃぃ!!頑張れーー!!お兄ちゃんは見てるぞー!!きりちゃんしか見てないぞー!!」
ああ・・・もう・・・何を言っても無駄なのはわかってるけど。まだ何も始まってないから!ラジオ体操さえも!つーか園長先生まだ話してるから!!
「ではプログラム1番ーラジオ体操ー」
スルー?!いいの?!いくら保護者だからって何してもいいわけじゃないでしょ!追い出しなさいよ!その変態を!!
「うおーーー!!華麗だあああ!!その腕の伸び!足の開き具合!!最高だよーー!!さすが我が妹ーー!!」
嫁にいくなんて言わないでくれー!・・・って、誰かあいつを宇宙に飛ばして。きっと真空でも兄貴なら大丈夫だから。早く地球から追い出して!!
「きりちゃん・・・あれが噂のお兄様だよね?!」
「さすが!破天荒でいらっしゃる!!」
久しぶりのフランスぼうやとカメムシね・・・でもね、あれはただの変態。
「今日の最後のリレー・・・僕の勇敢な様を見てもらって、きりちゃんのお兄様に認めてもらうチャンス!!」
「ふっ、わかってないな。運動会の真の見せ場は借り物競争!僕はコーンを4つ重ねてゴールテープを1番に切ってやる!ただ走るだなんてカメムシでもできるね!」
カ、カメムシ・・・筋金入りなの?カメムシにどんな愛を見出したの?というか借り物競争って紙めくって書かれてる物を探して持って走るんでしょ?なんでコーン4つって宣言しちゃってんの?コーンにどんな魅力があるの?つーかカンニングって時点でアウトよ!腐ってるわよその根性!
「わかってないな、バトンとともにつながる思い、それこそが美しき友情!お兄様は感動せずにはいられないだろうな!僕は1番で受け取り、1つめのコーナーを曲がった瞬間にこける!そして見事な逆転優勝!!ま、アンカーではないけどね!」
阿呆なの?フランスぼうやは阿呆なの?自作自演?しかもアンカーじゃないのに逆転優勝って誰に何託してんのよ。託される方の身にもなりなさいよ。しかも最初に兄貴は宣言しちゃってるわよ、あたし以外見てないって変態宣言を。
「はーい、きりちゃんたち〜ラジオ体操終わったから自分たちの場所に戻ろうねー」
「ふっ、とりあえずこの場は引き分けということで」
「いいだろう、決着はリレーだ!」
「借り物っつってんだろ!」
ああ・・・どうしてあたしの周りってこう恥ずかしいやつばっかりなのかしら。
こうも揃いも揃って阿呆ばかり・・・だから日本の子どもの学力は低下してんのね。なんなのゆとり教育って?なんか成果あったの?言ってみなさいよ!どんな成果があったのよ!
昔はね、日本人は勤勉だったのよ。だからみなさいよ、車なんて世界進出よ?高級品よ?たわしも作ったってすばらしいじゃない!たわしがない世界なんて考えられないわ。たわしがあるからあのフライパンにこびりついた汚れも取れるし、兄貴を起こすときに役立つのよ!
「きりちゃーん!僕の勇姿を見ていてくれー!」
なんだかんだ借り物競争?まーせいぜい頑張ることね、カメムシ。
「くそがきー!!俺のきりちゃんに何アピールしてんだー!!」
「お兄さん!見ていてください!見事コーン4つを持って完走してみせます!!」
「馬鹿言ってんじゃねー!コーン持ったぐらいで威張るなああ!!」
「ご心配なく!コーンには種も仕掛けもございませんから!!」
なんだろう・・・はじめて兄貴が少しだけマシに見えたような・・・でも気のせいね、うん。っていうかコーンになんの仕掛けができるの?
そして始まってみたら・・・カメムシは走り出した瞬間に足をもつれさせ・・・最後に残った紙を見て愕然・・・本部にいったかと思うと、手にしたのは輪ゴム・・・輪ゴム。もう、持ってるのか持ってないのかわからないというか意味ない感じね。ああ・・・カメムシが見るはずの紙・・・ゆさぶりっ子が手にしたようね、かわいそうに。コーン4つって何馬鹿な物渡してんのよ。先生も気づきなさいよ。明らかに無理そう・・・でもないわね、1着のようね。輪ゴムのカメムシが最後って・・・ありえない。
「ざっまーみろおお!!きりちゃんに好かれようなんて100年早いわ!!俺ときりちゃんの愛に踏み込めるやつなんてこの世にはいなぃぃぃ!!」
「くっ・・・まだまだだったようですね・・・ここはいったん身を引きます。しかし!必ず舞い戻ってきます!!」
兄貴・・・一応カメムシの両親もいるのよ、自重しなさい。訴えられるわよ。っていうか黙れ!
「えーマイクテスッ、マイクテスーお昼休みー再集合は13:00−マイクテスー」
何重要事項をマイクテストに使ってんのよ園長!保護者ぽかんとしてるわよ!
「きりちゃーーーん!!お昼休みだって!!早く早く、1秒でも一緒にいたいよー」
「・・・気持ち悪いよ?」
「愛だよ、愛。むしろ澄み渡ってるよお兄ちゃんの心は」
「ああ・・・そう。そうだと思ってなさい」
「つ、冷たい!今日はきりちゃんのために重箱詰め放題〜お兄ちゃんの愛はいつまでも〜スペシャル八段重ねを丹精こめて作ってきたのに!!」
「八段も作ってどうすんのよ!食材の無駄よ!このノンエコ兄貴!!」
「だって末広がり・・・」
「うわっ、一段目カレー?!」
「さあ見てくれ!!一段目はカレー!そして二段目はうどんさ!三段目はグラタンで四段目はヨーグルト、五段目はうな重で六段目はフルーツで七段目は白ご飯で八段目はなんと!」
「・・・」
「驚いただろう!見てのとおりカレーさ!!」
あたしたちの周り一帯に異臭が漂っているのは気のせいではないわよね。ああ、どうして兄貴は・・・兄貴は阿呆なの?会社は大丈夫なの?こんな調子で会社はやっていけてるの?むしろ兄貴の人生このままでいいの?
「さあ!食べて食べて!ただし自信があるのは一段目と八段目さ!」
「・・・カレーだけ?米ぐらい炊けるでしょ」
「今日は失敗しちゃってさ、おかゆになっちゃたよ」
「・・・」
「ヨーグルトも砂糖入れようかと思って味の素入れちゃって、なんていうかえぐい?」
「・・・」
「うどんとグラタンとうな重に関しては目も当てられない感じで」
「・・・」
「フルーツは多分食べれない部分の方が圧倒的だね」
「・・・」
「でも大丈夫!毒は入ってないから!ただちょっとおいしくないっていうか悪く言えばまずいっていうか!そんだけ!」
「・・・」
「さあ!どんどん食べてね!」
兄貴の料理は破滅的だとは思ってたけど・・・これは酷いわ。言葉が出ない・・・からとりあえずカレーを食べて女子トイレにこもることにするわ。まだカレーは人の食べ物だから。
「きりちゃんトイレー?早く帰ってきてねー」
残り45分、みっちりトイレにこもってやるわ。ごめんね兄貴。でも大丈夫よ、ここでいったん切るから。次に会うときはもう最終種目のリレーよ。
だらだら長いのってお互い疲れるわね。