幼稚園児の遊び
「きりちゃん、積み木で遊ぼうよ。きりちゃんのために部屋中のかき集めたんだ」
「何言ってんだ。そんな角が丸くなって薄汚れた木屑なんてきりちゃんは触らないよ。きりちゃん、僕の家からフランス人形持ってきたんだ、一緒に遊ぼう」
「馬鹿言うなよ、そんな呪われた人形きりちゃんに失礼だろうが。この身のほど知らず」
「お前こそこんな小さな部屋から集めた木屑なんてたいしたことないだろうが、イタリア製の家具のひとつでも持ってこいよ」
はあ、今日もまたあたしを巡っての争い。毎日あきないわね、この凡人どもは。だから嫌なのよね、同年代って。子供っぽいったらありゃしない。
大体積み木って、建築家にでもなりたいの?積んでは壊し、積んでは壊し、むなしいわ。そんな無限ループにかかわってるほどお人よしじゃないし、暇なんてないわ。
それに人形って、フランス人形って。こんな平凡な幼稚園にそれはあまりにも不釣合いだってわからないのかしら?それに無抵抗な相手を弄ぶなんて非道行為、世間の大人が許してもあたしは許さないわよ。
「きりちゃんどっちと遊ぶ?!」
まだやってたのね、気づかなかったわ。よほど暇なのね。しょうがない、幼稚園児の最新の遊びを教えてあげましょう。
「おままごとするわよ」
設定はどこにでもあるようなもの。建築ぼうやはあたしの夫。フランスぼうやは人妻のあたしに一目ぼれする若社長。
「奥さん、好きだ!君のためならいくらでも払える!」
「だめだめ!お金で物事解決できると思ったら大間違いよ、命を差し出す!ぐらい言わないと」
「は、はい!奥さん、好きだ!君のためなら命も惜しまない!」
「いいわよ、その調子。次、夫!たまたま仕事が早く終わって帰宅すると妻が知らない男に迫られていた!」
「おい、お前!何してんだ!」
「あ〜全然だめ、何してんだって愚問でしょ?男と女がすることなんて限られてるじゃない。もっとこう、激しい怒りをあらわにして!妻が襲われてんのよ?あたしのこと愛してんでしょ!」
「す、すみません!こ、こるぁぁぁ!おどれわしの女に何しとんじゃぁ!!」
「いいわ!その巻き舌最高よ!」
世間の昼はすごいのよ。幼稚園児のままごとも進化しなくちゃね。いつでも流行を気にしてないと、すぐに老けちゃうわよ。
「きりちゃんたちーそろそろ時間よー」
そろそろお開きのようね、しかたない。
「今日はここまで!」
「はい!ありがとうございました!」
明日からはもっと難易度あげないと。人生修羅場なんていくつもあるんだから、ちゃんと練習しないとね。
「きりちゃん、今日も幼稚園楽しかった?」
今日はカレー。兄貴はカレーだけはおいしい。他のものは豚のえさにもなりゃしない。
「楽しかったよ、友達に恋愛のなんたるかを教えてあげた」
「さすがきりちゃん、大好きだよ」
「あたしはさほどお兄ちゃんのことは好きではないわ」
「き、きりちゃん・・・!!」
幼稚園児も疲れるわ。