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幼稚園児のヴァレンタイン

人生、女なら一度は意識するこの日。世間は愛の日だとか恋人の日なんて言うけど、本当はそんな甘いもんじゃないのよ。



「そう、今日はウァレンティヌスの命日!」



恋人をふるさとに残したままだと思う存分戦えないとか理由でローマ皇帝は兵士の結婚を禁止!それをかわいそうに思ったウァレンティヌスって人は秘密に結婚させてて、それがバレて処刑された日なのよ!それを!愛の日に勝手にするなんて!!



「いやー、お兄ちゃんは線香よりチョコ派かな〜」



にこにことしながらあたしの前に両手を差し出す兄貴。



「・・・何の真似?」

「え?お兄ちゃんきりちゃんのチョコほしいなーって」



なんて・・・



「この愚か者があ!!」

「ひい?!」



阿呆なのかしら!


人の!

それも!

外国人の!!



「命日にチョコをねだる馬鹿にはそれぐらいがちょうどいいわ」

「き、きりちゃん・・・ここはね・・・そう頻繁に蹴り上げる場所じゃないよ・・・?お兄ちゃんこの年に使い物にならなくなるのはちょっと遠慮したいな・・・」

「いいじゃない。ついでにお兄ちゃんも便乗しなさいよ」

「何に?!ヴァレンタインに?!それとも命日に?!」

「言っていいの?言っちゃっていいの?」

「いえ!やっぱりいいです!!」



ウァレンティヌスって人がどんな人かいまいちわかんないけど、外国人ならきっとかっこいいわよねー。なんてったって背が高くてーなんか不思議言語操っててーリアクションがみんな芸人の出川みたいに大きくてー



「ふーんだ、トムクルーズが外国人だからってー。お兄ちゃんの方がかっこいいのにー」



空耳?そんなわけないわよね。部屋の隅でぼそっと言ったつもりらしいけど、あたしの耳は誤魔化されないわよ。



「お兄ちゃん・・・今なんて言った?あのトムクルーズを・・・あたしのトムを!!」

「きりちゃんのトムじゃないやーい!お兄ちゃんの方が100倍かっこいいわーい!なんだよ!ラストサムライ見たからって!きりちゃん実はトムより渡辺謙の方を気に入ってたくせにー!!」



開き直って言い返す兄貴。でも震えてるの、面白いけど・・・そう簡単に許されると思ってんの?!


そう、あたしは昨日ラストサムライを初めて見たの。感想としてはね、感動!感動よ!!それにかっこいい!いい!着物いい!!もちろん渡辺謙に関しては着物着てたからよく見てたけど?!本命はトムよ!トムクルーズ!!何あれ?!もうあたし言葉になんないぐらいよ!!!



「お兄ちゃんなんか大っ嫌い!!!」



腹の底から叫んでやったら、兄貴は何かのドラマシーンみたいに涙を一滴こぼした。


あれ?いつもは大声で「いやだー!嫌わないでー!なんでもするからー!」と泣きついてくるのに。



「お、お兄ちゃん?」



それからふらっと立ち上がると、そのままリビングを出て行った兄貴。



「おかしい・・・あたし変なこと言った?!」



あまりにも違う反応にあたしは少し心配になり、そっと2階の兄貴の部屋をのぞいた。

暗い、なんていうかいろんな意味で。つーかわざわざカーテン閉めるな!演出する余裕はあるんかい!



「うう・・・大嫌いって・・・そんな・・・チョコもほしかったのに・・・大嫌いなんて・・・」



ベッドにうつ伏せで、両手を目の下に置いたままうなってる。

ここまでチョコほしかったんだなー。でもどうせ会社でもらえるくせに。外面いいからモテてるの知ってるんだから。それに美保さんもいるし。



「お兄ちゃん」

「き、きりちゃん?!なんでここに?!」



あーまともに兄貴の顔見れない、直視できない。なんかいろんな液体にまみれてる。



「はいこれ」

「これ・・・」



出し惜しみしてたチョコを兄貴の手に無理やり押し込めた。家にあったチョコレートをハートの型に溶かして流して固めただけの何の変哲もないただのチョコ。



「・・・義理だから!義理なんだからね!!」

「ええ?!本命は誰なの?!」

「それ聞く?聞きたいの?」

「いえ!きっと聞いたら誰相手でも手加減なしでぶん殴るから!そしたらきりちゃんに嫌われそうだからやめとく!」

「そ、賢明な判断ね」



たしかに命日だけど。トムクルーズ好きだけど。やっぱり兄貴は好きだから。それにほしがってたの知ってたし。っていうか「あー、手作りチョコほしーなー。棚に板チョコはいってるんだけどなー」なんて言ってる時点であからさますぎんのよ。



「きりちゃんありがとう、ごめんね。お兄ちゃん盛大にやきもち焼いちゃっただけなんだ」

「わかってるわよ。あたしも言い過ぎた、ごめんなさい」

「き、きりちゃん・・・!!」



それから嫌がるあたしを抱きしめて、また大事な場所を蹴り上げられた話はしなくてもいいわね。あ、話しちゃった。ま、いっか。そんなわけでめでたくヴァレンタインは終わり・・・かと思いきや。



「こんにちは」

「は?!柳原!!お前何ナチュラルに不法侵入してんの?!警察呼ぶよ?!」

「こんにちは、どうぞリビングへ行ってください。ここは危険地帯なので」

「ではお言葉に甘えて」

「なんで?!なんでそうなるの?!何この展開!ついていけない!!」

「主任、早く行かないとまたきりちゃんに怒ら・・・嫌われますよ?」

「なんでわざわざ心に傷をつける言い方にする?!ああ!きりちゃん待って!!」



その後、呼んでもいないがやってきた美保さんの手作りチョコを3人で仲良く食べたことは、あたしの秘密の花園(単なる日記)にしっかりと書き込んだわ。だって、こんなに楽しいの久しぶりだったから。まるで本当の家族みたいで。まあ、変態とストーカーじゃ家族って言うかなんかの集まりみたいだけど。



幼稚園児も楽しいもんね。



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