幼稚園児の看病
今日は日曜日。だから幼稚園もお休み。
そんな日に限ってあたしの兄貴は
「うわー・・・お兄ちゃん船酔い」
「馬鹿ね、ここは陸よ。船上じゃないのよ」
風邪を引いた。
「ごめんね、きりちゃん・・・動物園行く予定だったのに」
「大丈夫よ、今度の休みはディズニーランドだから」
「うっはーつりあがったーでもきりちゃんのご要望ならなんでもおっけー」
そう、今日は動物園に行くはずだった。あたし歌の時は散々馬鹿にしたけど、実はぞうが好きなのよね。だってあんなに図体でかいのに、目はつぶらなのよ?!どうよこのギャップ!!最高のギャップもえってやつよ!!!
そんなことを考えていると兄貴の体温計が音を立てた。のろのろと数字を見て、兄貴はため息をつく。
「何度だったの?」
「んー38度?」
「聞かないでよ、とうとう脳みそ煮えた?」
「やだなー、お兄ちゃんはいつでも絶好調だぞう!」
「そうね・・・」
38度だったら病院に行ったほうがいいんだろうけど、生憎あたしは運転できないのよね。
「タクシー呼ぶ?」
「いいよ、寝てれば大丈夫だから」
そんなことを言って無理やり笑う兄貴。
汗だらだらで息も絶え絶え、そんなで大丈夫?風邪を馬鹿にしてんの?風邪は万病の元とも言われてることぐらい知ってるでしょ?甘いわ!!
「じゃ救急車」
「タクシーを呼びましょう」
「わかればいいのよ」
それから病院に行くと「風邪ですね」、と言われて薬を出された。兄貴も「はあ、そうですか」なんて軽く言ってたけど、家にたどり着くころには足取りも危なかった。
布団にばったりと倒れこみ、しばらく動かないので
「ひい?!」
踏んでみた。
「き、きりちゃん、お兄ちゃん踏まれるより撫でられたいな」
「くだらないこと言ってんじゃないわよ。ほら、さっさと薬飲んで着替えて寝なさいよ」
「く、くだらない・・・」
「さっさとして。今度は別の大切なところ踏みつけるわよ」
はあい、と力なく返事をしてあたしの言われた通りに動く兄貴は、いつもの何百倍も大人しい。しばらく風邪でもいいかもしれない。あ、そしたら兄貴働けないのか。イコールあたしの生活も危ういのよね。やっぱり駄目ね、さっさと治ってもらわないと。
「きりちゃん、お兄ちゃんは大丈夫だから自分の部屋にいてね」
「なんでよ、仮にも病人でしょ。看病してあげるわよ」
「駄目、うつっちゃうよ?きりちゃんが風邪なんか引いたらお兄ちゃん泣いちゃう!でもきりちゃん看病したいなーきりちゃん風邪引いてるとき目がうるうるでほっぺが赤くてちょーかわ」
「変態」
「な、なんか短い言葉って殺傷能力高いよね・・・」
なんだか元気そうだから戻ろう。変態っぷりが復活してきたからきっと寝てれば大丈夫ね。
それからぐずぐず言う兄貴を放って、あたしは自室へ戻った。でもとくにすることもない。そしてなんだか寂しい。いつもは嫌って程かまってくる兄貴が静かだからかな。
「・・・おかゆでも作ろっかな」
もちろんおかゆなんて作ったことないわよ?でも大丈夫でしょ。ようはやわらかい米!
とりあえず炊飯器に米を2合入れ、水を4合のところまで入れてスイッチ。しばらくたって出来上がりの合図が聞こえたからふたを開けてみた。
「・・・まあこんなもん?なの?」
兄貴の作るおかゆとはかなり違う気がするけどいいでしょう。兄貴だし。
器に盛って、スプーンとお茶を一緒にお盆にのせ兄貴の部屋に行く。なんて安定感がないのかしら。台車でも買いなさいよ!こういうとき困るでしょうが!
「お兄ちゃん・・・大丈夫なの?」
「ああ」
部屋に入ると兄貴は起きていた。しかし様子がおかしい。何故か半裸で笑ってる。
「なんで寝てないの?」
「きりがいなくて寂しくて」
鳥肌がすごい。あたし人生最大の鳥肌かもしれない。
普段から変態だ、変態だと思っていたけど。真顔で半裸で笑いながら。
「お兄ちゃん・・・狂った?」
「何を言うんだい、お兄ちゃんはいつものお兄ちゃんさ」
「いや、いつものお兄ちゃんなんだけど。度合いが違うっていうか」
「ん?いつもよりかっこいいって?きりは正直者だな、かわいいよ」
変なことを言ってる。っていうかこの人誰だろう?そもそも人なの?地球人なの?
「おや、きり。お兄ちゃんのためにおかゆを作ってくれたのかい?さすがお兄ちゃんのかわいいきりだ。料理もお手の物だね」
「あー、うん。じゃ勝手に食べて」
関わるのはやめておこう。病気で頭やられたんだわ、きっと。それかあの薬のせいね。だって医者もハゲてて脂まみれで汚いおっさんだったし。看護婦もスカート短かったし。なんか患者さんみんな生気なさ気だったし。呪われてるんだわ、絶対。
「食べさせてくれないのかい?きり。お兄ちゃんは病人なんだぞ?」
いつもの兄貴なら作った時点で「ああ!きりちゃんの手料理!写真撮ってから冷凍保存しとこう!」となかなか手をつけないのに、おねだり?兄貴がこのあたしにおねだり?冗談じゃない。
「甘ったれてんじゃないわよ!!!」
「ぎゃああ!?」
最初に予告しといたわね。でも喜ぶことね、手加減してあげたんだから。
「急所・・・さすが・・・我が妹・・・」
「感謝しなさい、これでも体重分だけよ」
そして兄貴は下半身で一番大事な所を抑えたまま、意識を失った。
ちょっとやりすぎたかしら?でもあたしの体重なんてたかが知れてるでしょ。そのまま眠りなさい。でも今度またあの兄貴だったら容赦なしにつぶすから覚悟することね。
それから兄貴が目を覚ましたのは7時間後。もうすっかり元に戻っていた。
「あれー?なんかあそこが痛い・・・って、これおかゆ?!きりちゃんが作った?!」
「そうよ」
「うわー!ありがとー!!写真写真ー!!!」
「写真撮ってる暇があるならあたしが食べるわよ」
「食べます!!」
おいしー!シンプルイズベストー!!と、冷え切ったおかゆを兄貴はうれしそうに食べた。
「・・・やっぱりまだこっちの方がマシだわ」
「何が?」
別に、とだけ言って座りなおした。
「お兄ちゃん、薬効いたね」
「あーでも変じゃなかった?お兄ちゃんさー薬飲むと何故か記憶がさっぱりなんだよねー」
「ああ・・・そうなんだ」
この瞬間病院への疑惑は吹っ飛んだ。
ごめん、汚いおっさんだなんて言って。スカートだっておばさんがはいてるからたいした攻撃にもならないし、病院なんだから生気なくて当然よね。本当、ごめんなさい。
今度からは本人の治癒力に頼ることにするわ。もう二度と薬なんて飲まさない。
ああ、あたしって苦労人。
お久しぶりでーす。
これからは・・・多分!もうちょっと!がんばります!予定ですけど!!!
お知らせ
プロフィールちょっとだけいじりました。よかったらご覧ください。ついでに坊ちゃんの方もよろしくお願いします。(がんばるぞー・・・予定ですけど!)