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幼稚園児のお食事会

「ご趣味は?」

「読書を、特に男同士の熱い物語を好んでます」

「休日は?」

「テレビゲームを、これも男同士のねっとりとした友情もどきをプレイ中です」

「実はあなたは?」

「俗に言う腐女子ですわ」


「やーめーてーくーれー!!」


机に突っ伏し、泣き喚く兄貴。本当、やめてほしいわ。周りのお客さんにも迷惑じゃない。


「柳原、もういいから!これ以上きりちゃんに変なこと言うのやめて!」

「変?主任、あなたはたった今全国の腐女子を敵に回しましたよ?怖いですよ?」

「今この状況が怖いから!」

「まあ落ち着きなって、お兄ちゃん」

「どうしてきりちゃんはそんなに冷静?!」


目の前の焼肉定食にほとんど口をつけず、涙ばかり拭いて。牛に謝れ、おいしくいただかないとはなんたることか!この子だって本当は今ごろゆったり草でも食べて、生を全うしたはずなのに。人間の身勝手で奪う命を、粗末に扱うなんて許さないわよ。


「美保さん、こんな男のどこがいいの?あたしだったら絶対に絶対に絶対に嫌だけどな」

「あらまあ、お兄様をそんな風に言うのはよろしくありませんよ。ね、主任?」

「そうだけどね、ショックだけどね、どうしてね、2人はね、そんなにね、仲いいの?」

「なんでストーカーなんてしてるの?いつから?」

「ストーカーだなんて、ただの追っかけですよ。実は私会社でミスをして、落ち込んでたときに主任に励まされたんです」

「無視ですね」


ぽっと頬を赤らめる美保さん。これは結構本気なようね。さっきから氷しか入ってないコップに刺さったストローを、ずっとかき回してる。それもハイスピードで。どんどん氷が飛び出していくの気づいてないのかしら?


「そのとき男性の複雑で愛憎に満ちた関係、時には誘拐・拉致・監禁、救い出さんとする攻めの深い愛情、受けのツンデレ具合にフォールドアウトだった私が、初めて3次元の男性に興味を持ったのです」

「・・・深いわね」

「きーいーちゃーだーめー!」

「そして私思いました。これは運命なんだって」

「安易だよー!ミスした後輩を慰める上司なんて全国各地にいるよー!」


ああ、とうとう氷がなくなったわ。でも気づいてないのね。ウェイトレスさんがとても困ってるわよ、この机の上の惨状に怯えながら。


「それから主任のことをこと細かく調べさせていただきました。それはもう、主任の好きなものから体中のほくろの数まで」

「怖いよ!純粋に怖いよ!」

「主任も最近は私と一緒にいて・・・だから私もてっきりいつの間にか恋人同士になったんだって」

「被害妄想もここまできたら神業だね!っていうか最近君わざとミスしてるでしょ?!コピー30部のところ300部ってなんだよ!新手のいじめかなんかですか?!」

「なのに先日頼もしい女性の声が電話に出て・・・きりちゃんのことですよ、あのときはびっくりしました。確か主任のご自宅には妹さんしかいらっしゃらないと調べていたので」

「調べてる時点であなたは立派な犯罪者です!」


悪い人じゃなさそうね、ただ猛烈に純粋で、初恋に浮かれてんだわ。大体男同士の複雑で愛憎(省略)が大好物の人が、よりにもよって兄貴とはね・・・類は友を呼ぶってやつかしら?

美人なのに、きっと学生時代はモテまくってたんでしょうね。この人の本性を知らない人は淡い恋心と下劣な下心を持って近づき、玉砕しつつトラウマを抱えその後の人生を歩んでいく運命に翻弄されているんだわ。罪作りな女ね、美保さんは。


「美保さん、お料理は?」

「実家が料亭をしておりますので、それなりには」

「家事は好き?」

「ええ、読書の次に洗濯や掃除が好きですわ」

「何か習い事とかしてましたか?」

「茶道と華道と弓道、少しピアノを」

「秋の田のかりほの庵の苫をあらみ?」

「わが衣手は露にぬれつつ。百人一首の1番歌をご存知なんですね、感激いたします」

「お兄ちゃんのことはどれぐらい好き?」

「2次元の世界を軽く飲み込むぐらいには」

「・・・合格!」

「えええええええええ?!?!?!?!?!?」


料理もできるし、家事も好き。そこら辺の女に比べて頭はいいし、美人だし、教養がある。ちょっと危険な思想を持ってそうだけど、そこは多分大丈夫でしょ。・・・多分。

それに2次元を軽く飲み込むだなんて物凄いことよ。2次元は宇宙と一緒で広がり続けてるんだから、それを飲み込むだなんて恐ろしい愛ね。これを断ったときには兄貴の命は存在しないわね。


「きりちゃん!よく考えて!確かに柳原は今聞いたところではしっかりした女性だと思うよ?でも人間としてどこかおかしいでしょ?!」

「馬鹿ね、こんないい人いないわよ。それに今後一切お兄ちゃんを好きだなんて言う人現れないわよ」

「そうです、現れても消します」

「ほらあ!消すって!消すって言ってるよ!!」

「美保さん、末永くお兄ちゃんをよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


さすがにお嬢様ね、こんな場所でもしっかり床に正座で三つ指だわ。常識が・・・あるのかないのかよくわからないけどまあいいわ。


「何ちゃっかり挨拶しちゃってんの?!僕の意思は無関係?!」

「お兄ちゃんはあたしの人選に文句があるの?あたし・・・悲しい」

「ああ!違うよ!きりちゃんがお兄ちゃんのことを思ってくれるのはうれしい!うれしすぎて血が煮えたぎるようだよ!でも・・・」


このあたしの上目遣いを駆使してもはっきりしないなんて、相当美保さんが怖いのね。これは時間がかかりそうだわ。


「美保さん、お兄ちゃん照れてるらしいの。でもきっといつか素直になるから」

「はい、それはわかってます。主任とんだ恥ずかしがり屋さんですから」

「僕の恐怖のおののきを単なる恥だなんて言葉で片付けないで!」

「お兄ちゃん、そんなこと言ってると嫌いになるよ」

「そ、それだけはご勘弁をー!!」


幼稚園児の仲人もなかなかじゃない?



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