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幼稚園児の疑惑

最近兄貴の様子がおかしい。まあ、兄貴がおかしいのは正常な気もするんだけど、最近は・・・なんというかこそこそしている。


「・・・お兄ちゃん?携帯鳴ってるよ?」


今も携帯がずっと鳴りっぱなしだが、一向に取らない。そわそわして、部屋を見渡したりテーブルの上にあるものを無意味に動かしている。


「そ、そーだね。でもいいんだ、きっと不幸の手紙の携帯バージョンなだけだから」

「何それ?お兄ちゃん誰かの恨み買うようなことしたの?」

「とんでもない!お兄ちゃんは真面目に堅実に清く正しく、日々神の恵みに感謝しながら生きてるんだよ!そんなことあるわけないよ!」


真っ青になりながら何を言ってるんだか、バレバレなのよ。どうせ兄貴のことだから、何かしでかしたんだわ。


「き、きりちゃん!何するの!」


ソファの上で震える携帯を開くと、画面には「美保」の名と番号。これはもしや・・・


「もしもし?」

「わあ!きりちゃんお兄ちゃんの予想を軽く飛び越えたよ!!」


慌てふためく兄貴。これはもう確定のようね。


『も、もしもし、主任・・・じゃないですよね?』

「そうよ、あんなのと一緒にされちゃおしまいよ」

「きりちゃん酷いよ!お兄ちゃんショック!」


うん、声はかわいい人ね。上品な感じはするし、あんなに待たされてその上本人が出なくても文句のひとつもないだなんて、なんて寛大な人なのかしら。あたしだったら3コール以内に出なかったら絶交よ。


『あの、もしかしてご家族の方ですか?私は柳原美保と申します』

「あたしはきり、美保さんの上司の妹みたいなもんよ」

「きりちゃんはれっきとした妹です!」


礼儀正しい人ね、高得点よ。兄貴の知り合いにしては随分まともなようね。あの変態の知り合いといったら、よっぽどのうつけ者か愚か者ぐらいだろうに。外面はいいのかしらね。


『そうですか、妹さんなんですね。随分大人っぽいしゃべり方だったので奥様かと思いましたわ』

「そんなまさか、兄貴の嫁になるぐらいならこの世を去るか、火星にでも嫁ぐわよ」

「お兄ちゃんはまだ嫁にいくことは許しません!」


外野がうるさいわね、ここはストレートに聞けってことなのかしら?そうよね、そうに決まってるわ。


「美保さんはお兄ちゃんの彼女なんですか?」

「ぬああ?!きりちゃーーん!!」


今にもあたしの持つ携帯を奪い取らんとする勢いの兄貴。でも取らせないわよ。このあたしから何か奪おうものならそれこそ地獄に落ちればいいわ。


『えっと・・・そうです』

「へ〜やっぱり」

「ちーがーうーだーろー!誤解だー!誤解だよきりちゃーん!!」


奪い取りはしなかったけど、直接電話に向かって叫ぶ兄貴。やっぱりそうだったのね、だからそんなに涙を流しながら隠そうとするのね。馬鹿ね、恥ずかしいことじゃないのに。20代の青少年だったら何も不思議なことじゃないのよ?むしろ当たり前ね。


「違うんだよきりちゃーん!この人はね、お兄ちゃんのとんでもない勘違い同級生なの!中学校から一緒でね、それから高校・大学・就職までたまったま一緒だったの!それをこの人は『運命だね』なんて言っちゃってる頭のおかしい人なんだよー!それで向こうはなぜか急に彼女気取りしてるの!おかしいよね?!本当おかしいったらありゃしないよ!!」

「うるさいよ、黙って」

「い、一刀両断?!」


そんなもの運命以外になんだって言うのよ。だいたいね、兄貴の行った学校は高レベルだし、今の就職先だって普通そう簡単には入れないのよ。もし意図的だったとしても、ここまで兄貴について来るってのはすごいことだしありがたいことね!こんな変態に好意を持ってくれたことに、あたしは感動すら覚えるわ!


『あの・・・もしかして今お取り込み中でしたか?』

「大丈夫よ、お兄ちゃんのいつもの病気が出ただけだから」

「お兄ちゃんは健康優良児です!」

「お兄ちゃん、黙らないと今後一切口きかないから」

「・・・」

「よし」


さて、とりあえず黙らして。今日はもう9時ね。


「美保さん、今日はもう遅いから後日でいい?今度は食事でもしながらゆっくり話したいわ」

『よろしいんですか!ありがとうございます、主任いつまでたってもご家族に会わせてくれなくって。いまだに私が調べたプロフィール以外は教えてくれないんです。そしたら今度の日曜日あたりよろしいですか?』

「いいわよ、楽しみにしてるわ」

『じゃあ時間と場所についての相談はまたお電話でよろしいですか?』

「いいわ」

『ありがとうございます、夜分遅くにすみませんでした。それでは失礼します』


さすが一流会社に勤めるだけはあるわね。これは今度の日曜日が楽しくなってきたわ。


「〜!〜〜!!」

「何してんの?ちゃんとしゃべらないとわかんな・・・あーいいよしゃべって」


律儀に口をつぐんでいた兄貴は、あたしが電話を切るとさっそく暴れていた。そんなことをすっかり忘れていたあたしは、やっぱり兄貴は馬鹿なんだと再確認したわ。


「きりちゃん!なんで勝手にあんな約束するの?!相手は予想以上に変態なんだよ!!」

「お兄ちゃんより変態だなんて、ある意味貴重よ、奇跡よ。UFOとかネッシー以上の大スクープよ」

「き、きりちゃん・・・!」


まあ多少は覚悟してるわよ?ここ1週間の兄貴の様子からして只者じゃないのは確かね。しっかりと見せてもらうわよ、柳原美保さん。あなたの変態っぷりをね。


幼稚園児も気を抜けないわ。



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