幼稚園児のなぞ
「ねえきりちゃん、ごうかんってなに?」
おはようもなしにいきなり質問とは、建築ぼうやもえらくなったもんね。人間関係を良好にするには、あいさつをするかしないかにかかってんのよ。建築ぼうやはだめね、会社に入ったら瞬く間に退職よ。
「昨日ね、ニュースで女の人がごうかんで死んじゃったってあったんだ。でも僕ごうかんってわからなくて、お父さんに聞いたらいつかわかるぞーって言うんだ。今知りたいのにさ。馬鹿にしてんのかな?」
「馬鹿ね、そんなことお父さんに聞いたぐらいじゃわかるわけないじゃない」
「えー僕知りたいよ〜きりちゃんは知ってるのー?」
「・・・知ってるわよ」
知るわけないじゃない!あたしにわかるぐらいならあんたもわかるでしょうが。幼稚園児にわからなくて、聞くと大人が口を濁らすんならきっととんでもないことなのよ。それぐらいわからないのかしら。
「どういう意味なのー?」
「・・・大人になったらわるわよ」
「えーきりちゃんまさか知ったかぶりー?」
「お黙り、このカメムシ」
「ひ、ひどいよ!今日はただ単に緑色の服着てるだけじゃない!」
「におうのよ、青臭いにおいが!」
「とにかく教えてよ!知ってるんでしょ!」
「・・・」
今日はやけにしつこいわね、このカメムシは。つーか今日からあんたの名前はカメムシよ。
「・・・ごうかんってのはね」
「うん!」
ああ・・・何この純粋で眩しい眼差しは。どうやら教えないといけないわね、この美しく腹立たしい瞳のために。本当のことは知らないけど。
「昔ね、郷田さんって人がいたんだけど、その人はとってもぶさいくで女の人にモテなかったの。で、その郷田さんはその腹いせに女の人に思いっきり空き缶を蹴りつけたの。そりゃもう痛いのなんのって。女の人はその痛みで悶絶したそうよ。それから男の人が女の人に酷いことしたときは、ごうかんって呼ぶことにしたのよ」
「へ〜すごーい!きりちゃん物知りー!さすがー!」
「当然よ、このくらい常識よ」
「ありがとう、きりちゃん。これで僕も常識人だよ!」
「よかったわね、常識カメムシ」
「ま、まだ言ってたの?!」
「いいじゃない、世の中常識を持ったカメムシなんてそうそういないわよ。もっと喜びなさいよ」
「わ、わかった」
おめでとう、これであなたも本当の意味を知るまで笑い者よ、カメムシ。あたしを知ったかぶりだなんて言ったことを後悔しなさい。
「昨日、またもや強姦未遂事件が発生し付近の住民は不安に陥っています」
「やだねー、最近の世の中は物騒で困るよ〜」
「本当、郷田さんも蹴り飛ばす以外に何か思いつかないのかしら」
「?」
幼稚園児もわからないことだらけね。