幼稚園児の大晦日
来年まであと20分あまり。あたしは兄貴と年越しそばを食べながら紅白を見ていた。
「最近の紅白いまいちね・・・」
「えーそうかなー?」
外は雪がちらついて、犬が遠吠えしている。きっと仲間同士で寒いだの何だの愚痴りあってるんだわ。日本は今猛烈に寒い。冬なんだからしょうがない。
「・・・お兄ちゃん、こたつ入るなら服着なよ」
「きりちゃん、真冬にパンツ一丁でこたつは冬の風物詩だよ」
「そんな奇妙な風物詩聞いたことないよ」
さすがは変態兄貴。そばをどんなに荒々しくすすっても汁は決して散っていないわ。そして食べ尽くした兄貴は器を置くと、何やらもぞもぞと怪しい動きをし始めた。
「ふう〜完全変態完了ー」
「何が?!」
「え?」
こたつに手を突っ込んで取り出したのは、イチゴ柄のパンツ。
「・・・」
「ああ!無言でこたつから出ないで!」
「あたしお兄ちゃんは人より大分おかしいとは思ってたけど、どうやらあたしの想像以上におかしかったのね。失望した」
「し、失望・・・」
項垂れる兄貴を横目に、あたしはテレビに目を向けた。もうそろそろ終わりのようね、トリが出てきたわ。毎年よくやるわよね。きっと温暖化促進に大きな影響を与えてると思うの。ま、面白いからいいでしょう。
「きりちゃん、あの・・・その・・・」
「何?裸族さん?」
「ああ!お兄ちゃんと呼んで!服着るから!」
「なんだかそれも嫌ね・・・で、何?」
「初詣行かない?」
「行かない」
「そ、そんな即答しなくても・・・」
初詣なんか行ってばったり知り合いにあったらどうすんのよ。そんなときに限って兄貴の変態がばれたりしたらどうすんのよ。あたしもう二度と幼稚園に行けないわ。一生笑い者なんてまっぴらごめんだわ。
「ごめんね、あたしもう眠いの。お兄ちゃんあたしの代わりに神様にいっぱいお願いしといて」
「まかせろ!」
単純で本当によかった。お兄ちゃんと呼んであげると、さっきとは打って変わってはつらつとした顔。ちゃんと服も着てるし、あたしもゆっくり眠れるわ。
「きりちゃんがこれからもおにいちゃんのこと大好きで、ずっと一緒にいるように祈ってくるね」
「お兄ちゃん、一緒に行こう」
あたし、睡魔になんか負けるんじゃないわよ!これからの生活がかかってるんだから!!
あたし頑張れ!目覚めろ脳みそ!!
「きりちゃん?」
あたし・・・
「負け、ない・・・わ・・・よ・・・」
「あれ〜やっぱり眠かったかー。しょうがない、きりちゃんのために精一杯お願いしてくるよ」
ああ、体が動かない。兄貴があたしを抱えてる。あったかくてふわふわで優しくて・・・
「今年もよろしくね、きりちゃん」
あたしはまた来年苦労するのね。幼稚園児も楽じゃないわ。