幼稚園児の夢のない日
クリスマス、あなたはまだサンタがいるなんて信じてる?あたしはもちろん信じてるわ。だって、実際グリーンランドにいるのよ。あのもっこもこの白いひげ、一回でいいから顔をうずめてみたい。もちろんちゃんと洗った後によ。
「きりちゃーん、これプレゼント」
にこにこしながら兄貴はあたしに大きな箱を手渡す。まったく、夢もあったもんじゃないわよ。暖炉がないから入ってこれないのはわかるし、そんな馬鹿でかい靴下なんてないわよ?でももうちょっと努力してもいいじゃない。せめてあたしが寝てるときにひっそり枕もとに置くぐらいの思いやり持ちなさいよ。
「ねえお兄ちゃん、どうして今渡すの?」
「ん?だって日本は不法侵入したらだめって決まりがあるんだよ。だからサンタの代わり。それにかわいいきりちゃんの寝顔を赤いおっさんになんて見せたくないーそれにきっと盗撮されちゃうよ!」
元気いっぱい、堂々言ってくれたわねこの男。
「・・・お兄ちゃんにはプレゼントなんてあげないから!」
「えぇ?!あるの?!ほしー!ほしーよー!!」
実は今日はこの男の誕生日でもあるの。だからせっかく用意したけど、なんだか無性に腹が立つからあげないでおこう。・・・せっかく用意したんだけどね!わざわざ用意してあげたんだけどね!!
「きりちゃ〜んお願い、ちょうだい!お兄ちゃんほしくてたまらない!!」
さすが、気持ち悪い。合掌したまま腰をくねらし、顔中から液体を垂れ流してる。兄貴、これは決して大げさじゃないよ、本当に気持ち悪い。
「わ、わかったから顔洗ってよ。いくら妹だからってその顔はNGよ、放送事故よ」
「くれるの?!本当に?!洗ってくるよ!!」
ああ、黙っていれば格好いいのに。もったいない、本当にもったいない。世の整備の行き届いてない顔の持ち主に謝りなさい。
「はい、帰ってきた!」
「・・・ちゃんと洗った?」
「もちろんだよ、歯も磨いたんだから」
「嘘つきにはやらないわよ」
「ごめんなさい!嘘でした!」
「よし、んじゃそこに座って」
「イエッサー!!」
ずっとポケットに隠していたもの。ちょっと汚くなっちゃった。
「き、きりちゃん・・・」
「文句あんの?」
丸く切った厚紙に金色の折り紙をはって、端っこに穴をあけてそこにリボンを通す。はい、これで簡単金メダルの出来上がり。
「こ、これ僕のためにきりちゃんが作ってくれたの・・・?」
「そうよ、いらないの?なら返してもらうわよ。びりびりのぐっちゃぐちゃにして焼却してやるわ」
「酷い扱いだね!」
「いるの、いらないの?」
「いる!」
しょうがないから兄貴の首にかけてあげる。兄貴はうれしそうにメダルの裏表を見る、青ざめる。
「・・・何も書いてないの?お兄ちゃんありがとーとか、お兄ちゃん大好きーとか、お兄ちゃん以外なにもいらないーとか書いてくれないの?」
「あたし畜生道には興味ないから」
「どこでそんな言葉覚えるの?!」
「最近の幼稚園児は何でも知ってるのよ」
本当に馬鹿ね。そんなこと恥ずかしくて書けるわけないじゃない。でも違うわよ?純粋に!家族として好きなんだからね!変な勘ぐりしたら許さないわよ!
「あ、きりちゃんお兄ちゃんのプレゼント見てよ〜」
そういえばすっかり忘れてた。夢のない兄貴の夢の箱の中身って・・・
「・・・これ何?」
「お風呂セット!」
「いや、わかるけどさ。今んとこシャンプーハットと手桶としか見えないんだけど・・・」
「え?それだけだよ?」
「・・・」
やっぱり夢なんてないのね、この男には。
幼稚園児も現実を見なきゃいけないのね。