幼稚園児の童話
この世にはたくさんの物語が存在していて、あたしたち子どもはいいことも悪いことも学ぶ。たとえば王子様とお姫様の苦労の末に実らす愛、助けた動物からの恩返し、人々を苦しめる悪者から取り戻す平和、嘘の吐きすぎで村人に見捨てられた男の愚かな死に様、自分の欲のために失った財産と思いやり。
だったらあたしが全部を混ぜて、もっといいもの作ってみてもいいと思わない?きっと貧困中学生生態日記よりはるかに売れるわよ。
「お兄ちゃん、あたしの作ったお話聞きたい?」
「聞く!」
手始めに兄貴。夕飯の片付けが終わったのを見計らって話し掛ける。じゃないとお皿とかコップなぎ倒してあたしの所に来ちゃうからね。
「昔々」
「うん」
「あるところに」
「うん、うん」
「じーさんと」
「うん!」
「ばーさんが・・・」
「うん!それで?!」
「いました」
「うっわ、老老介護の可能性大だね!」
聞いちゃいない。これは単に相槌打ってるだけじゃない。だから兄貴は変態なのよ。
「お兄ちゃん、黙って」
「え?お兄ちゃんの感想とかそのときの感動の声は聞きたくない?!」
「うん、むしろ邪魔」
「き、きりちゃん・・・!」
とりあえず話を進めた方がいいわね。兄貴との無駄話は心身に多大な影響を与えかねないからね。
「昔々、あるところにじーさんばーさんがいました。じーさんたちには子どもがいませんでしたが、二人もいい年なので自分たちの老後を世話してくれる手ごろな子どもを探しに村中探し回りました」
(いきなり拉致なんだね、さすがきりちゃん)
「すると、目の前に身寄りのなさそうな一人の小さな女の子が泣いているではありませんか。じーさんたちはさっそくその子におかしを罠に家へ連れて帰りました」
(最近お年寄りの万引きとか問題になってるよね、さすがきりちゃん)
「10年後、女の子は大変美しく成長しました。そしてその美しい女の子は1匹の犬を飼っており、芸をたくさん仕込んでお金をたくさん稼ぎました」
(立派にじーさんばーさん孝行してるんだね、さすがきりちゃん!)
「しかし、なんと女の子はそんな仕事真っ最中に悪魔にさらわれてしまいました。女の子はその薄汚い外道に惚れられてしまったのです。どうしましょう、女の子は悪魔の尻尾を引きちぎりました」
(女をなめんなってことだね、さすがきりちゃん)
「するとまあ、びっくりした悪魔は女の子を上空1000mのところで手放してしまいました。女の子はあるお城の庭に真っさかさま。もうだめだ、なんてつまらない人生だったのかしら、無念でしかたない、この世を恨んでやる。そう女の子が誓って般若心経を唱えるとどかん!見事城の美男子が助けてくれました」
(効果音からして美男子はかなりの怪力のようだね、さすがきりちゃん)
「美男子は女の子を見て一声、結婚してください、と言いました。女の子は即決して、二度とじーさんたちの所には帰りませんでした。一方そのころ、芸を仕込まれた犬は、なんとか自活し立派に生き抜きました。そして、自分を捨てた女の子に復讐するべく、旅に出ました」
(たくましい動物の愛憎物語の始まりだね、さすがきりちゃん)
「・・・続く!」
「・・・きりちゃん?」
「問答無用、続く!」
「ま、まあ続くんならいいけど・・・いつ続きは聞かせてくれるの?」
「タラちゃんが成人したら!」
「あの家族の時間は止まったままだよ!磯野家の時間軸じゃ一生続き聞けないよ!」
童話作家さん、本当にお疲れ様です。尊敬します。
「あきたの?!きりちゃんあきちゃったの?!」
あたしは自分を過信してました、反省します。
「お兄ちゃん犬の今後のこと考えると眠れないよ!それに種類も気になるよ!希望はチワワだけど!」
だから続きお願いします、眠いんで。ほら、もう9時じゃない。お子様はねんねの時間なのよ。
幼稚園人も健康第一なの。