始まり
ゾンビ物です。ではいきます。
今日はいやにだるい。
寝よう。
真冬なのに暖房器具が全て故障している。
両親はいない。家中から布団をかき集める。
八枚!
ガウンを着たまま布団の山に入り、俺は死んだように熟睡した。
俺の名前は土屋アラタ。なんの個性も特技もない平凡な高校生だ。
いや、まあ趣味くらいあるよ? AVは露出物に限る。
あと、世界で一番強くなりたい。いずれはどんな手段を使ってでもこれを実現したい。
そして世界を変えたい。草一本残らず俺色に染めたい。
それから……ええと……ああそうだ!
この前見たゾンビ映画がとても面白かった。
「聞き届けた」
地の底から沸き上がる低重音が鼓膜を通り抜けて直接頭の中に響いた。
というか、体の感触が無くなっている。浮いているような気さえする。
体が透き通っているような不安定感に襲われる中、俺は際限なく広い白い空間にいた。
夢か。夢だな。
「こんなものを望むとは気の知れない奴だ。だがどんな奴がいてもいい。わしはただあるがままを生きて死ぬお前たちの宿り木じゃて。文句を言う筋合いではないわ」
指をかざされる。出口を指し示される。
ぐんぐんと浮遊感が落下に切り替わっていき。
俺は目を開けた。
暑い、布団を蹴り飛ばす。顔だけ外に出た。
そこは緑生い茂る湖のほとりだった。空が青く景色が美しい。
夢か。夢だな。
俺は汗だくで布団から這い出し、一枚二枚と服を脱ぎながら湖に近付いていった。
暑い。夢なら。別に水着が無くとも。
パンツも下ろし後ろ脚に蹴り脱いだところで意識が暗転した。
目が覚める。
暑い。運動した直後のように体が熱い。
違う。熱いのは他人の血だった。
死体の山の中、俺はぽつりと半裸で突っ立っている。
シャツだけ引っ掛けて、下は全裸だ。
そのシャツもボロ布で、ほとんど服としての用をなしていない。
死体の山の中で何かがぷるぷると動いた。
どう見ても俺からは肉の塊に見える。
逃げる――いや――
これは。
異世界転生だ!
ネットで読んだ!
夢じゃない!
なんということでしょう!
そして周りには死体の山と動く肉塊だけ、案内役は期待できなさそう。
ボソボソ、ボソボソ。
足元で音がした。
何の冗談か女物のパンツを被り、目も鼻も潰れ四肢の一本も残っていない死体の口腔で何か鳴っている。
否――生きている。
「大丈夫…なわけないかいや大丈夫ですか?」
俺は、肉塊と変わりなく見える人間の言葉を聞き取ろうとその口元に耳を近付ける。
同じ言葉が繰り返されていた。途絶え途絶えの聞き取りずらいことその上無いそれも、十回も聞くと意味が分かってくる。
「ふくをきろ」
「………」
あんた目も見えてないのにそんな…だが、死にゆく者の最後の願いを無下にすることはできない。
「わかった、わかりました。けどあんたは見えてないだろうけど、周りに着る物なんて一枚もないんだ」
するとその性別も分からない息絶える寸前の誰かは、最後の力を振り絞って息を吸い、息絶えながら音を吐いた。
「パ、パンツ」
土屋アラタ
装備 ボロい布 女性用パンツ
設定とか見るだけでもちょっと楽しい的な人、いるよね? いてください。