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放課後

放課後ラプソディー

作者: 三角まるめ

 千代梅高校、通称チョメ高。平均偏差値は中の下という、県内でもどちらかというと入学がしやすい公立高校。学校の売りは特にない。○○部が全国大会出場だとかいった実績もこれといってない。学校のパンフレットに「特徴がないのが特徴の普通の学校」と開き直ったキャッチコピーを載せているが、一般的な「普通の」学校ならそんな事を自ら謳い文句になどしない。

 そんな学校に彼は通っていた。名は一ノ瀬。所属している部活動はラジオドラマ部。

 ラジオドラマとは、簡単に説明すると声と音だけで表現する、映像の無いドラマである。なぜ彼がそんなマイナーな部活動をしているのかというのは説明すると少し長くなるので、詳しくは前二作を読んで頂きたい。

「あ~~~~()せえ……二階堂の奴何やってんだよ」

 ラジオドラマ部の部室である放送室。その一角にある和室のスペースで一ノ瀬は畳に寝転がっていた。

「まあまあ、何か用事が入ったんスよ、きっと」

 同じく畳に座り込んで携帯をいじっていた女子生徒が答える。髪はド派手な金色だ。公立高校のわりにはチョメ高は校則が緩いのであった。

 彼女は四条(しじょう)。一ノ瀬の一つ下の後輩である。「~ス」が口癖の、やはりちょっと変わった女子生徒だ。

 今部室には彼らふたりしかいなかった。ラジオドラマ部には現在部員が十一名在籍しているが、日々部室に顔を出すのは大体がこのふたりと、それからもうひとり、部長の二階堂くらいであった。

「お待たせ~」

 ドアが突然ガチャリと開いた。約束の時間に遅れても少しも悪びれた様子も見せずに彼は入ってきた。

 ラジオドラマ部長、二階堂。一ノ瀬をこの部に引き入れた人物。彼とは同級生だ。少し……というか、かなり変わっている……。

「遅せーよ」

 一ノ瀬は体を起こした。

「お前、遅れんなよとか言っておきながら、自分が遅れてんじゃねーかよ」

「いやーごめんごめん。ちょっと面倒臭い事に巻き込まれちゃってね」

「めんどくさい事?」

 彼は二階堂の言葉を疑う。

「どうせお前の事だから、大した事でもないんだろ?」

「実はさー……」

 二階堂は説明を始めた。

「クラスメイトの山口(やまぐち)君が、担任の保坂(ほさか)先生に本気で恋しちゃっててね」

「はあ?」

「だけど保坂先生は結婚してるし、子供もいるんだ。しかもその子供がさー、よりにもよって山口君の幼馴染でさー、何と山口君の事を好きなんだよ」

「お、おう……」

「さらにその幼馴染の娘は学校のマドンナで、そのせいで彼女の学校の番長が山口君に目を付けてるんだ。おまけに保坂先生は男でね」

「めんどくさっ!! お前それ相当めんどくさい事になってるぞ!! 疑って悪かった!!」

 ほんとに厄介な事態だと知った一ノ瀬はすぐに二階堂に謝る。

「んで、彼にどうしたもんかと相談されたんだけど、ごめん部活があるからって無視して置いてきちゃった」

「無視すんなよ! 俺らの事はいいから! 山口君を助けてやれよ!」

「でも山口君、あんまり喋った事無いし、滑舌悪いから何言ってるのか聞き取りづらいし」

「山口君めんどくさっ!!」

 山口君の話題はここで一区切り付いた。何か、今の流れだけで結構疲れた……一ノ瀬はなぜか息を切らしていた。

「さてさて」

 二階堂は和室に上がってくると畳に腰を下ろす。

「それじゃあ早速本題だ。今日みんなに集まってもらったのは他でもない。文化祭での発表についてだ」

「文化祭……そっか、もうそんな季節か」

 一ノ瀬は二階堂の言葉を受け、これまでの日々を振り返った。このラジオドラマ部に入って、すっかり時間が経ってしまっていた。

「ああ、新学期が始まり、みんなまだ新しい学年になったばかりでそわそわしている、そんな季節さ」

「あれ? 春なの? まだ春なの?」

「思えば一ノ瀬がこのラジオドラマ部に入ってからもう1年が経つのか……あっという間だったね」

「え!? 春なの!? もう春なの!?」

「最後の文化祭か……感慨深いね」

「いつの間にか3年になってんの!? だってこないだまで2年だったじゃん!」

「そりゃあれは1年前のお話だもん、当たり前じゃん」

「ええ……えええっ!? 俺の高校生活、もうあと1年もねーの!?」

「みんなって言っても、結局いつものメンバーっスけどね~」

 四条のこの一言がふたりの会話の流れを断ち切った。

 ……だって意味わかんねー部だもん、この部。と一ノ瀬は心の中で呟いた後、どうして自分はその意味わかんねー部に居続けているのだろうと虚しさを覚えた。

「まあまあ、収録の時とかはちゃんと呼べば来てくれるんだし、そもそも籍を置いてくれているだけでもありがたいよ。補助費が出るし」

 何か弱みを握られているのではなかろうか……とクラブメイトの事を心配する一ノ瀬。

「まあ、三人寄れば文殊の知恵、ってね。これだけいれば十分さ。さあ、今年の文化祭はどんな作品をやるか、話し合おう!」

 こうして三人での話し合いが始まった。

「なあ、ところで去年はどういうのしたんだっけ?」

 一ノ瀬が切り出す。

「え? 一ノ瀬覚えてないの? 確かあの時はもう君は戻って来てたじゃないか」

「あー、そうなんだけど……何でか覚えてなくて」

「えーっと確か去年は……音楽の青春物をやったっスね」

 四条が答えた。

「音楽の青春物?」

「はい。主人公は内気な男子高校生で、友達がひとりもいないんスけど、音楽と出会って成長していくっていう」

「確かバンドを組むんだよね」

「はい。11MCのバンドっス」

「……まあそんなんが来るとは思ってたよ」

 一ノ瀬は苦笑いをしながら静かに頷いた。

「……一応理由を聞いとこうか。何でボーカルが11人もいんのか」

「理由なんて特に無いよ。一昔前にデビューした、メンバー全員が平成生まれの某グループよりも多めにしようと思っただけさ」

「……仲が良いグループ全員で組んだんだな。仲間はひとりも削りたくなかったんだな」

「そうそう。それに全員のパートがちゃんと分かれててサビでは綺麗にハモるんだ」

「ちょっと待て歌まで歌ったのか?」

「そりゃそうさ。音楽物なんだから」

 そりゃそうだが……全校生徒だけじゃなく、部外者にまで自分の歌唱を聴かれるなんて……よくもまあそんな恥ずかしい事出来たな……と一ノ瀬は思った。というか彼もしているのだが。

「ちゃんと歌唱指導もしてもらったじゃないか」

「そうだっけ」

「はい。二階堂先輩の知り合いのミュージシャンに来てもらって。確かメジャーデビュー……」

「メジャーデビューしてるミュージシャンが知り合いにいんのかお前!? 何かすげーな!」

「を夢見てかれこれ15年近く四畳半でひとり盛り上がってる、っていう」

「駄目じゃん!」

「彼すっごい褒めてたよ。お前達のバリトンが見事にフォルテッシモしてて素晴らしいディクレッシェンドだった、って」

「……そいつ多分デビュー出来ねーよ……」

 去年の振り返りは続く。

「そういえば、主人公は何を担当したんだっけ? ボーカル?」

 二階堂は所々しか覚えていなかったらしく、四条に尋ねた。

「楽器っスよ、楽器。ほらあれ、あの木の棒で叩く奴」

「ああ、ドラムな」

「ウッドブロックっス」

「どんなバンドだよ! そこでもハブられてんのかよ!」

「やがて音楽を通して主人公は気が付くっス。長い物には巻かれようって」

「……何か、嫌な方向に成長しちまうんだな……」

「ってのが去年やったのさ」

 前回の作品紹介が終わった所で二階堂が一ノ瀬に振り向いた。

「……よくそんな作品放送したな……」

 と、自分にもツッコむ一ノ瀬。

「んで、それを踏まえた上で、今年のをどうしようかねえ」

「踏まえちゃいけないと思う」

「去年は内気で大人しいタイプだったから、今年の主人公はやっぱ熱い奴っスよ!」

 四条が両手をぱちんと合わせ、目を輝かせながら言った。

「例えば、世界中に散らばった七つの球を集めてワクワクしてくる野郎とか、メルヘン好きなワクワクが止まらない奴とか。全力少年っスよ! 何事にも全力を尽くす暑っ苦しい奴。だから……坂を全力でダッシュする! とか!」

「それはもうテレビでやってる。しかもあれ走ってるの女だし」

 彼女の意見を一ノ瀬はあっさりと却下した。大体、坂を全力で上るラジオドラマって、どんなラジオドラマだよ。

「だったら」

 今度は二階堂が口を開く。

「だったらオーガナイザーしか無いってばよ!」

「駄目だってばよ」

 またも却下。

「何……だと……!?」

「ちょっとー一ノ瀬先輩。人の意見否定してますけど、先輩は何かアイディアあるんスか~?」

 またこの流れである……だってお前ら、ちょっとズレてるじゃねーの。

「んー……別に主人公の設定は、それでいいと思うよ。熱血漢。問題なのはテーマだよなあ……どんなのがやりたいか」

 そこで二階堂がぽつりと言った。

「禁断の、愛……とか」

「え? 山口君?」

「春の木漏れ日の中で繰り広げられる立場を超えた愛……それに、同性愛……このふたつを兼ね備えた物は、なかなか無いんじゃないだろうか」

「だからそれ山口君だよね? あれ? お前ネタとして消化しちまうの?」

「ちょっ……ちょっ……ちょっ……! だ、駄目っスよそんな! お、おお男同士が組んず解れつ……っ! そ、そんなの、そんなの……! どこに行けば薄い本が買えるんスかぁっ!」

 ええ~~~お前腐だったの~~~~~! 思わず垣間見てしまった四条の一面に、一ノ瀬は口をぽかんと開けていた。

「ちょい待て! そんなの文化祭の出しもんとして駄目だろ!」

「だっ……! ちょっと先輩出す(・・)だなんて、乙女の前でそんな事っ……!」

「あんたはだーっとれーっ!」

「う……確かにその通りだ……」

 二階堂は頭を抱える。

「じゃあどうしようか……文化祭も迫ってるし、そろそろ決めないとまずいぞ……!」

「大体何でそんなギリギリに話し合いを始めたんだよ」

「それは……山口君が……」

「山口君は恨めないっ……!」

「ん~と……じゃあ、もういっその事、発表はやめちゃえば」

 四条が人差し指を立てて提案した。

「発表をやめる……? 今年の文化祭には参加しないって事かい……?」

「いえいえそうではなくて。発表じゃなくて、模擬店とかでいいんじゃないかと」

「模擬店か……」

 確かに、普段の活動とは全く関係無い模擬店を出す部も多々ある。だがそれは大半は運動部で、文化系は大抵教室を借りて展示などを行ったりするのだが……それでも文化系の部が模擬店を出すのは珍しくはない。

「まあ、俺はどっちでもいけど」

 一ノ瀬には特にこだわりは無かった。最後の文化祭だから、何かしらの形で参加はしたいが。

 さて、問題は二階堂だ。果たして彼はどう出るか。

「…………そうだね」

 彼は俯いたまま、首をゆっくりと縦に揺らし始める。

「模擬店もいい思い出になるだろう……それに、いいラジオドラマを作るには、色々な経験が大事だ」

「じゃあ、模擬店で決まりか?」

「うん! そうしよう!」

「だったらそれはそれで、何のお店をやるのか決めないとっスね」

「僕に任せて!」

「え?」

「僕が考えてくるよ!」

「お前……大丈夫なの?」

 ラジオドラマの様な感覚で訳分からん事を言い出したりしねーよな……と一ノ瀬は心配に思う。

「今日は僕のせいでもう遅くなっちゃったから解散で! 模擬店で何をやるか、後は僕が家で考えてくるよ」

「……まあ、お前がそんなにやる気があるんなら……」

 という事で、今年の文化祭は作品発表ではなく、模擬店をやる事に決まった。時刻も午後六時を過ぎており、今日はもう解散という事になった。

 そして翌日の放課後。一ノ瀬も四条も、また遅れる二階堂を部室で待っていた。

「あいつ、また遅刻かよ……」

「もしかしたら今度は、薄い本を描いてて遅れてるのかもしれないっス」

「お前……読みたいのかよ」

 ほんとにこの部は、ろくな奴がいねー……。

「やあやあお待たせ」

 昨日とは違い、今日は申し訳無さそうに二階堂は放送室へと入ってきた。

「何だよ二階堂、まためんどくせー事か?」

「うん、今度出るゲームを予約しに行ってたんだ」

「ぶん殴るぞ」

「まあまあ。ちゃんと考えてきたよ、模擬店のメニュー」

「変なもんじゃねーだろうな」

「カレーだ!」

「何でだよ! ……あれ!? 普通だ!」

 一ノ瀬はつい反射的にツッコんでしまったが、カレーとはまたオーソドックスなチョイスだ。二階堂のわりには珍しく普通だった。

「材料はさっきゲームの予約ついでに買ってきたんだよ」

 そう言って彼はリュックの中身をふたりに見せる。中にはレジ袋に入ったジャガイモやニンジン、カレールゥなどがあった。

「今から調理室に移動だ。もう許可は取ってあるよ」

「こういう時はお前ってほんと手が早いよな……」


 という訳で、一行は調理室へとやってきたのだった。

「んー……」

 ガスコンロや流し台を見ながら一ノ瀬は唸る。

「今頃なんだけど、俺料理全然出来ねーんだよなー……」

「そうだろうと思ったから、君はしなくていいよ」

「え?」

「ただし当日は客引きを頑張ってくれ」

「あー、なるほどね……わかったよ」

「今日は僕と四条で作ってみるから、君は適当に死んだ魚の目でもしていてくれ」

「断る」


 二時間後。

「駄目だ……どうしても上手く作れない……どうしてもどうしても……チャーハンになってしまう」

「何でだろ!?」


 そして、文化祭当日はあっという間にやってきたのだった。

「大丈夫か? ちゃんと作れんのか?」

 運動場に張られたテントの中で一ノ瀬は不安な声を出す。他の部員はそれぞれの都合で午後からしか模擬店を手伝えない。午前中は調理は二階堂と四条のふたりでするしかないのだ。

「大丈夫っスよ! あれからふたりで練習したんスから」

 四条の言葉は嘘ではなかった。ふたりは見事、とろっとろのカレーを作る事に成功したのである! ……いやインスタントルゥだから箱の裏の作り方でも見りゃそんなに難しくもないんだろうけど。

「あの……」

 ちょうど作り終えた時、ひとりの男子生徒が声をかけてきた。二階堂が対応をする。

「あ! 山口君! いらっしゃい!」

 山口君!? こいつがあの山口君!?

「ひとつ下さい」

「オッケー! 300円だよ!」

「はい」

 山口君は財布から百円玉を三枚取り出し、四条に手渡した。

「ありがとうございまっス」

「はいどうぞ! 冷めない内に召し上がれ!」

 差し出されたカレーライスを彼は美味しそうに食べ始めた。

「もぐもぐ……美味しいよ二階堂君」

「ほんと? いやー練習した甲斐があったよ。ていうか山口君、滑舌良くなったね」

 確かに……普通に喋れてるじゃん、と一ノ瀬も思う。

「うん。溜まってた事がすっきりして」

 すっきりしたって、どういう事だ……?

「それは良かったね!」

 こいつ、絶対心の中ではどうでもいいと思ってんだろうなあ……とは言葉には出さない。

「きっとあの滑舌の悪さは不安定な精神状態のせいだったんだよ!」

 おいおい、いくら何でも適当過ぎんだろそれは。

「もぐもぐ……美味い、美味いなあ……」

 山口君はずっと店の前に立ちカレーを食べ続けていた。悩みから解放されたからか、本当に美味しそうに食べている。

「カレーってこんなに美味しかったんだなあ……もぐもぐ……それで二階堂君に一言言いたい事があったんだ……はふはふ……あの……むぐむぐ……本当にアディガドゥル」

「何だって!?」

 一ノ瀬、ついに初対面の山口君にも全力でツッコむ。

「もぐもぐ……ごくん。滑舌が良くなってはっきりと伝えられてよかったよ。じゃあ二階堂君、また」

「全然はっきりしねーよ! カレー食いながら喋ったせいで大した滑舌じゃなかったよ!」

「うん! 嬉しい言葉ありがとう!」

「お前聞き取れたんかい!」

 山口君は満足気に去っていった。

「山口君……何て言ったかちっともわかんなかったや……」

「やっぱ聞き取れてなかったのね!」

「よーし、山口君の悩みも解決したみたいだし、一ノ瀬! 君はとっとと客を呼び寄せるんだ!」

 面倒事も解決した所で仕切り直す様に二階堂は声を張り上げた。

「わかったよ」

「目標は100人だ!」

「それはちょっと……せめて10人とか」

「じゃあ30人!」

「わーったよ……えー、ラジオドラマ部、ラジオドラマ部のカレーはいかがですかー! 滑舌も良くなりますよー!」

 一ノ瀬は客引きを始めた。調理をしない分、これが彼の仕事だ。

「よーし、僕達も一ノ瀬に負けないくらいにガンガン作っていこう!」

「はいっス!」

 そして……。


「一ノ瀬ーっ! まだ10人ってどういう事だよ!」

「しっ……しょうがねーだろ……俺だってずーっと声は出してるよ」

 正午になった所で売れたのは山口君を含め十皿だった。なぜ二階堂が怒っているのかというと、一ノ瀬が客引きを始めた時点ですでに三十人分の材料を大鍋に投入していたからである。つまり、煮込み終えてから大分時間が経ったにも関わらず、まだ大量に鍋の中にカレーが残っているのだ。

「これじゃあ……これじゃあカレーがどんどん傷んでいくじゃないか! いくら保温してても、加熱し直しても、劣化してるのに変わりはないんだぞ!」

「んな事言われても……お前が一気に作ったから……」

「僕は君の言葉を信じたんだ! 30人呼び込むという君の言葉を!」

「うっ……! でも俺だって……」

「……!」

 二階堂はエプロンを外し始めた。

「お、おい二階堂、どこ行くんだよ」

「……休憩だろ、僕は」

「お、おい!」

 彼はリュックを持ちどこかへと行ってしまった。

「……あちゃ~、ありゃ結構怒っちゃってるっスね~」

「……ま、後で謝りゃいいだろ。別にカレーは食えなくなった訳じゃねーし」

 ところが、休憩から戻って来ても、二階堂は少しも口を利いてくれなかった。何かを頑なに考えている様だった。

 結局、その後彼がろくな会話もしてくれないまま文化祭は終わった。

 そして、代休が明けた火曜日も、その次の水曜日も、二階堂は部室に顔を出さなかった。確認した所、そもそも登校すらしていなかった様だ。

「……あいつ、そんなに怒ってんのか……?」

 にしても子供過ぎんだろ……学校にすら来ないなんて……。

 だが、もしかしたら彼には何かこだわりがあったのかもしれない。高校最後の文化祭だったのだ。

「……」

 何度かメールはしているが一度も彼から返信は無かった。

「……電話してみっか」

 下校中、一ノ瀬は二階堂の携帯に発信してみた。

《……もしもし》

「! 二階堂」

 すると彼はあっさり電話に出てくれた。一ノ瀬は驚く。

「お前、どうして学校来ないんだよ」

《君、何て事してくれたんだ》

「え?」

 彼の声は暗い。

《一ノ瀬……君のせいで、君のせいで僕は死んでしまうかもしれない……》

「死!? おい、ちょっと待て早まるな!」

《早まるな……? もう、手遅れだよ、きっと》

「ま、待て! まだ間に合う! なあ、俺が悪かったよ!」

《なら高級霜降り肉でも食べさせて欲しいね……》

「肉!? 肉だな!?」

 プツン、と通話は一方的に切られた。

「……ッ!」


 さらに翌日の放課後。部室に四条がひとりでいた所、四日振りに二階堂が姿を見せた。

「あっ! 二階堂先輩! お久し振りっス!」

「やあ四条。久し振り」

 彼はけろっとしている。

「どうしてたんっスか? 風邪でもひいてたんスか?」

「え? 違う違う。ちょっとゲームに夢中になっててね」

「へ? ゲーム?」

「うん。ほら、こないだ僕が予約しに行ってた。あれがなかなか面白くてね。ついついハマり込んじゃって。文化祭の直前からやってたんだけど、やっと昨日終わったんだよ」

「文化祭の直前から……あ、って事は、文化祭の時にひとりでどっか行っちゃったのも……」

「そうそう。先生も通る運動場で堂々とゲームをしている訳にはいかないだろ?」

「なるほど~。じゃああの後急に大人しくなったのもゲームの攻略法を考えてたんスね」

「そういう事。いやー、それにしても昨日はほんとに酷いタイミングで一ノ瀬から電話が来てさー。メール返すの忘れてたんだけど、後から折り返せばいいかなんて思ってたらちょうどラスボスの必殺技くらっちゃって。いやーあの時はほんとに死ぬかと思ったよ」

「それで大丈夫だったんスか? ラスボスは倒せたんスか」

「うん。高級霜降り肉がフィールドに落ちてて。いやーほんとに死にそうだったよ」

 二階堂は畳に腰掛けた。

「あ、肉といえば。そういえば今日、何か一ノ瀬が焼き肉おごってくれるんだって。四条も来る?」

「ええっ! いいんスか~?」

「いやー、一ノ瀬の奴、よくわかんないけど太っ腹だなあ」

 一ノ瀬が真実を知るのは、高級焼き肉店で特選霜降りコースを振る舞っている最中であった。

これ書く前に字数が多いと指摘されたのですが、ごめんなさい今回さらに多くなっちゃってます……内容が無いのに書いてて疲れるってただの拷問じゃないか!

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