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096.おやすみなさいタクヤ

 アサミがこの世界に来て不思議に思っていたことに、毎晩タクヤと同じ床で横になっているというのに何もないということだった。


 ホームレスだったタクヤと毎晩ガード下で一緒に寝ていたけど、あの時はネコで言葉が通じないし身体の大きさだって違っていた。


 でも今ははじめて出会ったときと同じぐらいの体つきになっていた。もっとも見た目の年齢差はあまりなくなっているし、アサミにはネコ耳とネコの尻尾がついているけど。


 「アサミ、今日はもう寝ようよ。なんでもシフォンヌさんが朝一番に見せてあげたいものがあるというから」


 タクヤはそういって床で休むようにと言ってくれたけど、なんとなくアサミは違和感があった。まだ永川亜佐美だったとき、男が女をそうやって床に誘ったときにやることは・・・といった話を学生時代散々聞いたからだ。


 亜佐美は自分で言うのもなんだけど、芸能プロにスカウトされるぐらいの美少女として有名で、著名な大学教授の娘で、性格も良いと評判だったけど、ただひとつの珠に傷といわれたのが、男性運に見放されていたという事だ。


 言い寄ってくる男全員を拒絶してしまったけど、ほとんど亜佐美の好みのタイプでなかったからだ。どうしても高校時代に出会った教育実習生タクヤがひとつの基準だったためだ。


 だから、美保子などの同級生に合コンに連れて行かれても高嶺の花のようにお高く留まっていると、参加した男にいわれる始末だった。


 「そうだね、もう休もうね。それにしてもシフォンヌおばさんに素晴らしいものを頂いたんだから、そのうちきちんとお礼をしなくちゃ・・・」


 そういうとアサミはベットの上で眠りに落ちてしまった。その姿はネコのように丸くなっていたというか、ネコそのものだった。アサミの尻尾には大きなリボンがついていて、その尻尾を股に通して背中を丸くして眠っていた。


 一方のタクヤも、異世界に来た時差ボケと、身体が急激に若返ったのが原因か分からなかったが、夜になると身体から急速に力が抜けるのをいつも感じていた。


 「俺も寝るか・・・それにしてもアサミと俺って恋人なのか相棒なのかわからないなあ。将来はきっと・・・」

 そう云いかけて同じように眠ってしまった。


 それからしばらくしてヴァリラディスが覗いた時、タクヤの胸の上にアサミの手が載っていた。それはまるで飼い主の胸に手を添える飼いネコのようだった。そしてアサミの寝言が聞こえてきた。


 「おやすみなさいタクヤ、きっといつかは・・・」

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