009.運命のフライト(3)
爆弾騒ぎのため、出発ダイヤは大幅に狂っていた。空港内に駐機して爆破予告のあった日本の航空会社の飛行機が全て欠航し、数少ない運行便への乗換えなどで大混乱に陥っていた。そのため私たちが乗ろうとしていた飛行機の出発は大幅に遅れていた。
「思ったんだけど、亜佐美って誰か彼氏出来なかったわけなの?」美保子は長くなった待合時間を弄んだのか、旅行とは関係ない話題を切り出した。
「そういなかったわよ。だって学生時代コンパに行ったのは一年のときだけじゃないの? ほら、わたし母さんの看病をしていたし、なくなった後は父さんや妹のため家事をしていて結構忙しかったよ。だから彼なんて出来なかったわよ」
「そうだったね。でも勿体ないよ。亜佐美って人気者じゃなかったじゃないの。それに芸能プロに街角でスカウトされたのも一度や二度ではなかったし、自分の資質を自分で過小評価していたんじゃないの?」
「うーん、実は気になっていた男性はいたのよ、その人のことが頭からすっと離れなくてね・・・でも、ほら敬遠気味じゃなかったクラスの男子って! 私に手を出したら他のクラスメイトから非難されるだなんていって牽制しあってからさ!」
「亜佐美は人気者だったよね、高校時代から。それにしても気になる男性ってまさか一年のときに教育自習でやってきた・・・ほら、なんとかという背の高いけど目立ちそうに無い男!」
「そうよ、さこざ・・・迫崎琢哉先生! わたしも理由を聞かれてもわからないけど・・・なんか運命の赤い糸みたいなものを感じたのよ」
「あ、赤い糸? そんな事言っていたねえ。でも、お付き合いしたこと無いんでしょ!」
「内緒にしていたけど一度だけデートみたいな事をしたのよ。ほらウチで飼っているアリスってネコがいたでしょ!」
「ええ、あの太って動かない骨董品みたいなブタネコ・・・あっ、あれって確か?」
「そうよ、迫崎先生が里親を探していた子猫の最後の一匹よ! ほら雌ネコで器量が悪くて引き取り手がいなかったから、わたしの家で引き取ったのよ。それで彼が家にあの猫をつれて来てくれた御礼に一緒に遊びにいったのよ。ネコのエサやオモチャを買いに行くんだといってね。それで食事をしたり、プリクラを撮ったりしてね・・・でも、それで終わったけどね、後は年賀状のやり取りだけしているけど」
「ってことは、亜佐美はまだ先生に脈があるわけなの?」
「そういうことかも。別れる時にもし私と付き合うとしたらどんな障害があるの? と聞いたのよ。そしたらまだ高校生だから君が大学を卒業して立派な社会人にならないとだめだといってくれたのよ。まあ、今にして思えば社会辞令みたいなものかもしれないけど、その時は真に受けてね。その後別に好きな人が出来るかもと思ったけど、なぜが胸キュンしなかったので・・・」
「そう、じゃあもし迫崎先生と再会したら、亜佐美の恋の情熱は再燃したりしてね!」
「そうかもね、でもそんな偶然起きるかしら? 神様って気まぐれだから」
「それもそうね」
「それはそうと美保子の彼氏って、その後そうなったのよ・・・」
私は他愛の無い恋話を続けていたけど、それらは全て叶わぬ夢の話だった。本当なら、そのまま欠航してくれたらよかったのに。