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074.山道にて(4)人間になりたいのですが

 要塞馬車は峠をゆっくりと進んでいた。ここにはかつての文明が築いた大輸送用軌道が山脈を切りとおしで貫いていたが、千年ものあいだに土砂が堆積したりして通行不能になっていた。そのため新たに作られた道路をゆっくりと進んでいた。


 もっとも、土木技術は大幅に退化しているのか、一応舗装はされていても路面が流れないように敷石を敷き詰めたものなので、揺れは激しくなるばかりだった。


 「すまんな若いの。この馬車にとって最大の弱点はこういったガタガタ道を進むときなんだ。揺れがいっそう増すからな。まあ車酔いにでもなったら遠慮なしにいってくれ」


 そういわれてもタクヤもアサミも気持ち悪くて仕方なかった。特にアサミなどはだれたネコのような格好で舌を出して寝そべっていた。


 「アサミ! まだネコの癖が抜けないのか?」


 「わたし・・・まだネコですよ! ネコ耳もあるし、尻尾だって・・・そういえばわたし完全に人間になれるのですか?」


 アサミはソファーの上でくつろいでいたヴァリラディスに聞いていた。すると彼は書棚から一冊の本を取り出した。


 「この世界は様々な種族がいるんだが、実はわしら夫婦のような人間は大多数を占めてはいても、どちらかといえば立場が弱いのよ。

 君のようにキャック族みたいな少し人間ではない種族の方が優遇されるのだよ。だから人間からそういった異形の種族になりたいという希望は少なくないけど、その反対を望むのは殆どいないのさ」


 「でも、それでもわたしはタクヤのような人間に戻りたいのですが・・・」

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