073.山道にて(3)陸船
同じ頃、タクヤは要塞馬車の倉庫でのジェムシームに手伝わされていた。先ほどの狼龍獣の牙や爪を梱包していた。生臭い匂いを消す香料をまぶして油紙に包んでいた。このとき作業していたのは要塞馬車の二階だった。
この要塞馬車は三層になっていて一層目は倉庫、二層目は作業部屋と調理室、三層目は居住スペースで、そのうえに物見ができる楼閣がついていた。また二層目には要塞馬車を牽引する機械馬に通じる渡り通路にもなっている牽引棒と繋がっていた。
作業中、馬車は本当にゆっくりとした速度で動いていたが、それも道の状態が悪かったからだ。建設から千年以上経っていたので地殻変動により段差が出来ているところも多く、時々揺れるほどだった。しかも要塞馬車自体も老朽化が進んでいるので、軋む音がひどかった。
「この馬車もねそろそろ大規模な修繕が必要ね。この作業部屋の床なんか踏むとたわんでいたりしているから。まあお金はたまっているけど職人がね、みつからないから。前に修繕したのは八十年前だけど、とっくにその職人はいないようだしね」
ジェムシームは梱包した牙を箱に収めながら言っていた。彼女は相当の老婆であったが、それでもシャキシャキと動き回っていた。そのとき、窓から道路の脇に巨大な金属製の腐食した船のようなものがみえた。
「おばさん、あれって何ですか? なんか、この要塞馬車よりも巨大なもののようですが」
「あれはね、この道路を使っていた陸船さ。言い伝えによれば破局戦争が勃発する前に、大陸間の交易のために使われていたそうよ。なんでもこの世界を一周するのに十日もあれば出来たそうよ。いま、この要塞馬車でやったら半年はかかるかな?」
その陸船は山道の脇で何両も転がっていた。どうも破局戦争の際に立ち往生していたところを破壊されたようだった。その陸船をみていると、腐食によって土に戻ろうとしているものが多く見受けられた。しかもよく見ると陸船にはまだ貨物として搭載されていたような兵器らしいものがあった。
「なんか、機械馬みたいな機械のようなものがありますが、あれって誰も手を出さなかったのですか?」
「あれかい、この世界を滅亡の縁に追い込んだ機械文明の穢れた遺産なのさ。そりゃ、機械馬だって遺産に違いないけど、もう忌々しい文明の利器を使わないと誓ったわけなのさ。だから触れるのはタブーなのさ。
まあ、時々調査する者もいるようだけど、もう何に使っていたものなのかは判らなくなっているけど」
そういっている間に陸船の残骸は見えなくなった。要塞馬車は峠の頂上付近へと近づいていた。




