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069.今晩は、これからは(3)要塞馬車の夫婦

 夜中近くになり、要塞馬車の主人ヴァリラディスが二人の様子をそっと覗いたときには、アサミはタクヤの胸に丸くなったような寝方をしていた。それはまるで子猫が人間に寄り添って寝ているかのようだった。


 それを見たヴァリラディスは少しニヤニヤした表情でそっと二人の寝室の覗き穴から目を離した。そして階段を上り要塞馬車最上部の覗き窓から外の様子を見ていた。ここはまだ漆黒の闇が広がる葦原で、人々の生活があることを示す灯りは、遥か遠くの破局戦争以前に作られた古く高い建物の残骸に少し見えていた。


 「こんな夜中に活動するとはどんな連中なんだろうか。まあ、うちが関わる事でもないけどなあ。本当にここはなにもないところだな。朝まで無事に過ごせれば良いのに」


 すると横から妻のジェムシームがやってきた。ふたりともこの要塞馬車で長く人生を共に歩んできたが、その二人からしても今回の旅は異例だった。ただ迎えに行くというだけだったから。


 「それにしても、あの二人は若いから愛を確かめ合っているかと思ったら仲良く寝ていただけだったわ。少し残念かもしれんなあ」


 「何をいっているんですか? いやらしいねえ。とりあえず明日の昼ごろにはこんな寂しい葦原を離れることが出来るのですから一安心ですよ。わたしゃギルドがおかしな命令でも出したのかもと心配しましたよ。それにしても、こんな辺境で異世界から召喚された人を迎えに行ったなんてはじめてですよ」


 「ああ、そのことなんだが、あの二人が召喚されたというのを知らせたくない存在があるということだ。どうも、あの二人がこっちの世界に来た際の衝撃波を感知されたくなかったとのことだ」


 「なんですか、その知らせたくない存在って?」


 「それが、わしも教えてもらえなかったんじゃよ。ただ災いの日が近いということらしい」


 「なんですって? この世界に多少の混乱が生じても少なくとも二百年は大きな災いが無かったというのに・・・」


 「その災いをはねつける事が出来るかも知れないというのだ、あの二人は」


 「そうですか・・・うちにはネコ耳娘とどこにでもいるような痩せ男にしか見えないですけど」


 「まあ、先物買いかなギルドも。それにしても、あの二人どうなっていくのかを見守ろうじゃないか」


 「そうしましょう、そろそろうちらも休みましょう。なんかあったら作動するはずですから安全装置が」


 「そうしようか・・・じゃあ寝よ」


 要塞馬車の老夫婦が床に付いた時、外には狼龍族の断末魔のような叫び声が聞こえてきたが、それが何を意味していたかはその時判らなかった。

 

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