066.失われた文明と魔道士
要塞馬車はゆっくりとした速度で走っていたが、半日ちかく走行していてもまだ葦原が眼下に広がっていた。
「この馬車が走っている道だが、かつての文明が残した大陸連絡道路だったが、地殻変動でこの先の大陸が沈没したので無用の長物になったんだよ。まあ、こんな葦原にやってくるのは漁師ぐらいだろうけど。とりあえず日が暮れたら停止するから。夜道は結構危ないんだよ。狼龍獣が活動するからなこの辺は。だから、こうして景色が見れるのはあともう少しだからな」
ヴァリラディスはそういってタクヤとアサミに要塞馬車の見晴台に案内していた。本当に何もないなあと思っていたところ、遠くに見たことのあるような人工物体が見えてきた。
「あれってなんですか?」
「あれか、あれは古代の都市と、それを滅ぼした天空船の残骸さ。今でも一攫千金を狙う連中が暮らしているけど、あそこで生活するなんて命がなんぼあっても嫌だな」
その人工物体は、超高層ビルの群れの残骸と、巨大な宇宙船の残骸だった。このような光景はたしか昔SFでみた宇宙戦争のようだった。
「あの建物は何年前のものですか?」
「あれは、たしか1150年前かな? いまは公暦1098年だからそれよりも50年は前だからな破局戦争があったのは」
「破局戦争ってなんですか?」
「ああ、この世界最後の大規模な国家間戦争さ。言い伝えではこの世界に住む住民が二十分の一になったというのだよ。しかも世界全体が火の海になったというのさ。あの機械馬の永久炉もその戦争の前に作られたものだけど、永久炉を作れる職人がいなくなったので新しいものは作れないのさ」
「それってどういうことですか? 住民が生き残ったら、もう一度文明を再興すればいいんじゃなかったのですか?」
「それはなあ、戦争の原因が国家のエゴと共にそれを必要とする資源を取り合うために世界が破滅したんだとされたんじゃよ。
だから生き残った住民はかつてのような物質文明ではなく精神的な生物の能力を向上させる方向に発展させたのじゃよ。その結果、国家間の戦争は撲滅は出来たのだ、でもな別な問題がおきたのよ」
「それって、魔道士と関係あるのですか?」
「そうだ! 妖力といった種の絶対的な能力を超えたものを悪用する集団が秩序を乱すようになったのさ。それに人以外の種もその能力を獲得してしまってから大変なことになったんだよ。
それで超越した能力を使えることが出来る職能集団が誕生したわけだ、それが魔道士というわけだ。だけど、一定の条件で拘束しておかなければならないので、各国の魔道士集団が組織したのが魔道士ギルドというわけさ」
「そういうことは、魔道士というのは派遣されるものなのか?」
「そういうこと! 大抵は能力の高い魔道士が依頼された仕事に応じてメンバーを選んだりするけど、いちいち能力を調べるのは難しいんだよ。それで派遣ギルドが登録している者の中からメンバーを選ぶわけなのさ。
だから、仕事のたびにメンバーが変わったりすることもあるし、ずっと同じメンバーとずっと一緒に行動する事もあるわけなの。だから、派遣ギルドに登録すれば仕事はもらえるわけだけど・・・まあ能力がなければお声はかからないけど」
「それじゃあ、俺たちはそこで登録することになるけど、場合によっては暮らしていけないかもしれないというのか?」
「まあ、そんな登録メンバーもいるようだけど。でも君らはまだ恵まれているぞ。この世界に召喚されてきた存在だから、とりあえず派遣ギルドが保証人を斡旋してくれるから、取りあえずは最低限の生活できるよ。それもこれも君らが登録を拒否しなければだけどな」
ヴァリラディスの話を聞いて、タクヤもアサミもどうも派遣ギルドの意向には逆らえないと思った。ただせさえ右も左もわからない世界であるのに、魔道士以外で働くすべがわからなかったからだ。
でも自分たちって魔道士としてやっていけるのだろうか?




