006.ネコに生まれ変わっていたのよ(後編)
「私って、初恋の人と結ばれるはずだったの?」 私はイリス・アントラーファ・・・えーい長ったらしいエンジェルでいいや! 彼女がいないかのように大声を出して泣き出していた。しかし周りで逢引している恋人は何も気付かない様子だった。どうも、エンジェルと私の魂とのやり取りは周囲から見えないようだった。それは横で寝転がっているタクヤも同じだった。
「そうです。あなた様に対する誤った対応ですが、高校のときに出会った初恋の人と成就させなかったこと。母上様を予定以上早く死なせてしまったこと。大きなテロに巻き込ませて死なせてしまった事。長寿のグループにはいっていたのに恩恵を与えなかった事。早死にさせた人の魂に対する然るべき対処を受けさせなかったこと。誤ってネコに転生させてしまったこと・・・その他多数ございまして・・・しかも、さらにその前世でもミスを連発しておりまして・・・」
その時私は驚いてしまった。運命って神様が決めるとばかり思っていたけど、私たちってゲームのキャラクターのように不確実な行動を勝手にするだけということらしい。エンジェルがいう機関はどうもゲームのプログラムのクリエーターのようなものということらしかった。そう、クリエーターの知らなかったバグでいくらでも想定外の出来事を起こしてしまう・・・
「多少のミスは誰の人生にでも生じることですが、ここまで誤ったのは記録上ありえないということになりまして。今期の救済されるべき魂のトップにノミネートされたのです。それもアサミ様に転生される前の前世でも予定以上早く亡くなってしまうのを五回も続いていまして・・・それは、初恋の人も同様ですけど」
そんなエンジェルの言う事を聞いてそんなに自分って不幸だったんだわと思うと悲しくなってきた。アサミという人間としての前世の記憶が甦ってきたが、それは楽しい事ばかりだった。そう、酷い最期を迎えるまでは。でも、一つ遣り残した事があった。素敵な男性と結ばれることが無かった事を! 中途半端に人気者だったので同級生の男子から少し敬遠されていたので、誰にも付き合ってもらえなかったからだ!
「ああ、そうだったわ。わたしヴァージンのままで死んでしまったんだわ! しかも最期は身体が四散して海の藻屑になって埋葬も火葬もされなかったんだ! そういえば初恋の人って今頃なにしているのよ?」
すると、エンジェルは目の前のベンチで横になっているホームレスを指差していた。タクヤってあの初恋の教育実習生だったんだわ! 迫崎琢哉・・・そうだ彼だ!
あまりにも顔形が変わっていたのですぐにわからなかったが、たしか彼ってネコ好きだった事を思い出した。高校の敷地内にいて保護した子猫の里親探しに奔走していた姿を思い出した。
「そうです、全くの偶然ですがあなたの初恋の人とこうして再会を果たしていたのですよ。当局も驚いています。本当に奇跡です!」
奇跡? 奇跡って神様が起こすものとばかりだと思っていたけど、エンジェルはどうも神様の使者であっても神様ではないということのようだわ。この時私の魂に封印されていた前世の記憶が甦っていたが、つらい人生最期の日の出来事を思い出していた。