004.アサミとタクヤ(3)
その日からタクヤとアサミの奇妙な同居生活が始った。ホームレス仲間の中にはアサミをネコ焼きにして食べようとするビーストみたいな者もいたので、一人と一匹はいつも一緒に行動していた。そのあとしばらくの間、タクヤはアサミをつれて近所の公園で日向ぼっこをするのが日課になっていた。
どこかのゴミ捨て場で拾ってきた猫用のゲージから出したアサミを公園で散歩させていた。そして日が暮れるまで、どこかで拾ってきた小説を読んで、アサミが遊ぶのを見ている毎日が続いていた。そしてアサミのために買ってきたキャットフードを少しずつ食べさせていた。
タクヤは自分の病気は養生すればそのうち治るかも知れないというものだとして、ずっと無理をしないようにしていた。もっとも、傍目から見れば怠けているようにしかみえなかったが。
そんな事を続けていたある日、どういうわけかタクヤが寝床にしているガード下に戻ろうとせず、公園のベンチで眠ってしまっていた。夕方になっても起き上がれなかった。どうも体調が悪化している様子だった。アサミはニャアニャアと鳴いて起こそうとしたが埒があかないので、そのまま横でアサミも眠り始めていた。
アサミが眼を覚ましたのは満天の星空が広がる時間になっていた。あたりの気温はずっと下がってきていた。眼を覚ましたアサミはむくっと起き上がってタクヤの顔を覗き込んでいた。
「こんなところでずっと寝ていたら病気が悪化するだけじゃないのよ! はやくガード下に戻ろうよ! 起きて頂戴!」そんなふうにアサミは考えていたが、そのときおかしなことにアサミは気付いた。アレ? なんで私人間の言葉で考えているのよ! それに、なんで私ネコなのよ!
アサミは驚いていた。ネコなのに理性と知性が備わってしまったんかと。ついさっきまで普通のネコと同じように状況に流されるがまま生きていたのになんで?
首筋を掻きながらアサミは戸惑っていた。タクヤに付いて来たのも本能のなすがままだったし、いままでだって本能のなすがままだったのに、なんで突然人間の心が宿ったのか理解できずにいた。よく思い出せないがこの男がノミを取ってくれるし、エサをくれるから一緒に行動していたけど、あまり男を思いやっているという自覚はなかった。すると目の前に見たことない美しい衣を纏った優しい表情をした女性が立っていた。その女性は何故か宙に浮いていた。
「アサミ様。いままで苦労をかけて申し訳ございません。当局の不始末でこんなことになったことをお詫びします」その姿を見たアサミはその場で腰を抜かしていた。